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当初、二百回ぐらいの約束で、新聞連載が開始されたが、作者の意気込み、読者・新聞社の熱望で、千余回の大作に発展した。一度スタートした構成を途中から変えることは至難だが、さすがは新聞小説の名手。ただし構成は幾変転しようと、巌流島の対決で終局を飾ることは、不動の構成であった。作者が結びの筆をおいたとき、十二貫の痩身は、十貫台に--。文字通り、鏤骨の名作。
769円〜814円(税込)
野に伏す獣の野性をもって孤剣をみがいた武蔵が、剣の精進、魂の求道を通して、鏡のように澄明な境地へ達する道程を描く、畢生の代表作。若い功名心に燃えて関ケ原の合戦にのぞんだ武蔵と又八は、敗軍の兵として落ちのびる途中、お甲・朱実母子の世話になる。それから一年、又八の母お杉と許婚のお通が、二人の安否を気づかっている作州宮本村へ、武蔵は一人で帰ってきた。
沢庵の温かい計らいで、武蔵は剣の修行に専念することを得た。可憐なお通を突き放してまで、彼が求めた剣の道とは? だが、京畿に剣名高い吉岡一門の腐敗ぶり。大和の宝蔵院で味わった敗北感、剣の王城を自負する柳生の庄で身に沁みた挫折感。武蔵の行く手は厳しさを増す。一方、又八は堕ちるところまで堕ちて、偶然手に入れた印可目録から、佐々木小次郎を名乗ったりする。
吉岡清十郎と雌雄を決す! 武蔵の年来の宿望は、ここに実現の運びとなった。時、慶長十年正月九日。場所は京都・蓮台寺野。もし武蔵が勝てば、その名声は京畿を圧するだろう。--武蔵は思いのまま戦い、勝利をおさめたが、彼の得たものは、心の虚しさでしかなかった。一方、蜂の巣を突いたような吉岡一門から、一門きっての暴れん坊、吉岡伝七郎が鎌首をもたげてきた。
いまや、武蔵は吉岡一門の敵である。清十郎の弟・伝七郎が武蔵に叩きつけた果し状! 雪の舞い、血の散る蓮華王院。つづいて吉岡一門あげての第二の遺恨試合。一乗寺下り松に、吉岡門下の精鋭七十余人が、どっと武蔵を襲う。--「一回一回の原稿が出来上がるまでは、主人の気迫が反映して、私どもまで緊張につつまれる毎日」だったと、文子夫人は当時の著者を回想している。
吉岡一門との決闘を切り抜け、武蔵は多大の自信とそれ以上の自省を与えられた。そしてまた、大勝負の後に訪れたゆくりなき邂逅。それはお通であり、又八であり、お杉婆であり、宿命の人・小次郎であった。その人々が、今後の武蔵の運命を微妙に織りなしてゆく。山ならば三合目を過ぎて、いま武蔵の行く木曽路、遥かな剣聖を思い、お通を案じる道中は、四合目の急坂にかかる。
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