わずか2年の作家期間にもかかわらず、日本SFに巨大な足跡を遺した伊藤計劃(没後、『ハーモニー』で第30回日本SF大賞受賞)、圧巻の絶筆。書き下ろし長編作品の冒頭に相当する。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「屍者の帝国」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
まず、わたしの仕事から説明せねばなるまい。
必要なのは、何をおいてもまず、屍体だ。
薄暗い講堂に入ると、微かに異臭が感ぜられた。思わずウェストコートのポケットからハンカチーフを取り出し鼻を覆う。見当はすぐにつく。これは校舎の臭いではない。ほぼ確実に骸の臭い、屍体の臭いだ。八角形の講堂の中心に置かれているのは解剖台で、その傍らには教授と瓦斯灯、何やら台に乗せた複雑怪奇な機械が付き添っている。わたしは友人のウェイクフィールドと共に講堂へと入ると、教授と解剖台との周囲を八角形に取り巻く席のひとつにつき、続く聴講生全員が講堂に入ってくるのを待った。
「あれがそうかな」
解剖台の上に横たわるものを指さしながら、ウェイクフィールドが耳許でささやく。
各110円 (税込)
とにかく社長が出てきてくれないことにはなあ……おれたち社員はどうなるんだ?北野勇作(『かめくん』で第22回日本SF大賞受賞)のペーソスあふれるショートショート。SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「社員たち」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。【作品冒頭】 敵の攻撃によって地中深く沈んでしまった会社を残された同僚たちといっしょに掘りはじめてもう半年近くになるのだが、あてにしていた失業保険がなかなか出ないこともあって、いよいよ貯金が心細くなってきた。そのせいなのかどうなのか帰宅すると、ねえ今日はどうだったの、どんな感じなのよ、などと妻がしつこく尋ねてくる。
小林泰三が贈る、記憶を軸にしたユニークな侵略SF。SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「忘却の侵略」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。【作品冒頭】 人類に対する侵略者の攻撃はすでに始まっているんじゃないかな、って僕は思ったんだ。 「なぜって、ネットのニュースを調べてみてわかったんだよ」僕は自分の考えを纏める時にいつもしているように架空の助手に向かって話した。「先月の頭ぐらいから、突然通り魔や事故のニュースが増え始めたんだ」 「それがどうしたと言うんです? 事故や通り魔などいつだってあったでしょう?」
宇宙の彼方をめざして孤独に飛びつづける無人探査機が活躍する、ハートウォーミングな名短編。SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「エンゼルフレンチ」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。【作品冒頭】 授業のあと、いつものようにダイチといっしょに自転車を押して、大学のそばのミスタードーナツまで歩いて行きました。 ダイチは定番のオールドファッション、わたしはチョコレートのかかったエンゼルフレンチ。あとはカフェオレを二つ。トレイに乗ったドーナツと飲み物を、ダイチが窓際のテーブルまで運んでくれます。たいていカフェオレのおかわりをして、本や映画の話題で盛り上がって──それは、ごく当たり前のように思っていた時間── いつもなら、席につくとすぐにドーナツに手を伸ばすダイチなのに、あの日はわたしの顔をじっと見つめたまま、うれしそうにこう言ったのです。 「すばる。おれ、選ばれたんだ」
と学会会長としても有名な本格SF作家・山本弘が贈る、月面を舞台にした本格ミステリ。SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「七歩跳んだ男」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。【作品冒頭】 その男は死んでいた。 そりゃあもう完璧なまでに死んでいた。 俺は倒れている男に五メートルまで近づいたが、現場を乱すことを恐れ、慎重に立ち止まった。男は手足を大きく広げて地面に突っ伏しており、ここからでは顔は見えない。見たところ大きな外傷はないようだ。それでも俺は、医師の診断を待つまでもなく、男はすでに死亡していると自信を持って断言できた。 なぜなら、男は宇宙服を着ていなかったからだ。
脱力しつつ読みすすめると、巨大な感動が押し寄せる、奇跡の名編。SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「ガラスの地球を救え!」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。【作品冒頭】 時は今、西暦二一九九年九月九日。 宇宙空間に浮かぶ二枚の巨大な黒い板のあいだを南海電鉄の五百人乗りジャンボ宇宙客船ダンジリ二七一号が通過するとき、船内のスピーカーから「ツァラトゥストラはかく語りき」の荘厳なメロディーが流れた。 「本船は現在、〈SCI-FIランド〉のモノリスゲートをくぐったところです。まもなく本船右手前方に、『スター・トレック』の原寸大エンタープライズ号が皆さまをお出迎えいたします。スコープをお使いいただければ、艦橋の窓からカーク船長やミスター・スポックが手を振っているのがご覧いただけるかと思います」
付与コインの内訳
51コイン
会員ランク(今月ランクなし)
1%
初回50%コイン還元 会員登録から30日以内の初回購入に限り、合計金額(税抜)から50%コイン還元適用
複数商品の購入で付与コイン数に変動があります。
会員ランクの付与率は購入処理完了時の会員ランクに基づきます。
そのため、現在表示中の付与率から変わる場合があります。
【クーポンの利用について】
クーポン適用後の金額(税抜)に対し初回50%コイン還元分のコインが付与されます。
詳しくは決済ページにてご確認ください。