1900年代初頭のアジア情勢を分析した828頁の大作である。
米国人のプロテスタント宣教師で神学博士のアーサー・J・ブラウン(1856~1963)は、1901~2年、及び1909年に朝鮮に赴き、1919年に米国で出版した本『THE MASTERY OF THE FAR EAST(極東の支配)』の初の邦訳本である。
著者は、カトリック・ギリシャ正教会・ユダヤの指導者たち、大統領を含む米国の政治家たち、ヨーロッパとアジアの王族、袁世凱などと親交があった。
弊社から既刊の『ザ・ニューコリア 朝鮮が劇的に豊かになった時代』、『1907(伊藤侯爵と共に朝鮮にて)』『朝鮮 總督府官吏最期の証言』と共に、貴重な一次資料である。
本書には日本と朝鮮双方の良い面、悪い面が記されているが、一方で、著者は、宣教師という立場・見解から逃れることはできておらず、全ての分析が、飽くまでキリスト教的良心を基準として判断されていることは否めない。また、著者が参考とした文献の大半が英訳されたものなどであるため、誤解や誤訳があったと推測される箇所もある。 しかし、それを差し引いても価値ある資料といえる。
著者は、朝鮮人を心から愛しており、本書の至るところでその気持ちをくみ取ることが出来る。その著者が次のように述べている。
「(日露戦争での)日本の勝利は、日本だけでなく、朝鮮、中国、そしておそらく世界に新しい時代をもたらし、極東政治の形勢を一変した。日本は、第一級の大国の一員として認められ、あらゆる場所で、ロシアの威光は弱まった。それは日本の指導下で、朝鮮が再建されることを意味した。そして、人類の3分の1以上を占める極東の大勢の人々が、ロシアの有害な絶対主義の影響に呑(の)み込まれてしまうかもしれないという恐怖を、消し去ったのである。 私には、ロシアを否定することで、日本を称賛しようという意図はない。しかし、日本が極東でロシアの進出を食い止めたことは、 日本が西洋と接した半世紀の間に、ロシアが5世紀かけてなした発展よりも、もっと決定的に重要な進歩を成し遂げたということである。日本は完璧からはほど遠いが、朝鮮と満洲南部がロシアではなく日本の影響下で発展することは、人類にとって良いことだった」(本文234頁参照)
当時の欧米人の大方の眼にはそう映っていたことは、近代史を学ぶ上で極めて重要な視点である。 本書が、古来から現代に至るまでの複雑な日朝(韓)関係理解の助けとなり、日朝(韓)の真の友好関係構築の一助となれば幸いである。
(c)Sakuranohana Shuppan Publications Inc.2016
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