幼女戦記キャラクター人気投票1位記念ショートストーリー - 1ページ目

『幼女戦記』キャラクター人気投票第1位は『ターニャ・デグレチャフ』に決定!
これを記念して、ここでしか読めないカルロ・ゼン先生の書き下ろしショートストーリーを公開中です!!

「幼女戦記」キャラクター人気投票 1位記念 ショートストーリー

『副官は見た!』

ストレスとは、精神的な負荷である。軍隊内の対人関係においては、軍務遂行に際して『無能』によりもたらされる摩擦の同義語だ。

少なくとも、ターニャ・フォン・デグレチャフ中佐にとってはこれが真実だった。

厳密に言えばもう少し定義の範疇も広いのだが、往々にして『無能な周囲』に足を引っ張られることが一番のフラストレーション源であるのは間違いない。

そして、戦争とはよりヘマをやらかした方が負けだ。

勿論のこととて、そこには失敗をどの程度まで許容できるかという『国力差』が残酷なまでにものをいう。

ただ、だからこそ『失敗』できない帝国軍では『無能』を許容し得ない。

裏を返せば、過酷かつ困難な任務の遂行・達成を求められることを別とした場合、ターニャ個人の労働環境として『悪くない』というのは事実であった。

なにしろ、直属の上官からして切れ者。

ゼートゥーア中将が無能だとすれば、帝国軍は全員が脳味噌の代わりに粘土でも頭に詰め込んだマネキンも良いところだろう。

合理的な理不尽という矛盾した酷使こそ受ける。有能な参謀将校とは、つまり人的資源の徹底的な活用派だ。……戦闘ストレスという別種のストレスに直面するかとターニャが嘆きそうなほどに扱き使われる。

とはいえ、平均的には恵まれていたのだろう。なにせ『軍内部』でのストレスという点でターニャの職務環境は『快適』ですらあった。

幸か不幸か、世間というものとターニャは隔離されていたといっていい。

急変する銃後の世論に対するアンテナという点では、ターニャはウーガ中佐の鋭い警句をもってしてすら、余りに鈍感ですらあった。

合理主義者の過ち。或いは、合理主義者の『誤算』。

彼らの思考方法は、単純にして明快である。『合理的に考えれば、そんな馬鹿な事はありえないだろう』という無邪気にして傲慢なまでの理性崇拝。

だからこそ、帝都で『休暇』を与えられた瞬間から、逆風は吹き始める。

『戦後』を睨んでの議論を見据えた瞬間、ターニャは最悪極まりない摩擦を認知せざるを得なくなる。否、摩擦というにも余りに強烈すぎた。

片や筋金入りのリアリズム、対峙するのは物言わぬ死者に支配された『世論』。文明ならざる価値観の衝突は不可避であると同時に必然だったのだろう。

そして、いつだって『極端なリアリスト』は少数派だ。感情の大渦を前にすれば、余りにも無力である。逆風がハリケーンと化し、ターニャの主観では繊細な己の神経を蝕むのは一瞬だった。

ストレス。

ターニャを蝕む脅威の四文字である。

当人としては苛まれている自覚が薄いとしても、部下の眼には一目瞭然だったのだろう。特に、身近で仕えてくれる副官には! なにしろ……司令部に顔を出すなり、副官がギョッとしたような表情でこちらを見つめてくるのだから。

「ちゅ、中佐殿?」

「うん? どうした、副官」

「……そ、その。表情が」

強張っていらっしゃいますが、という一言を副官は飲み込んだのだろう。無用な気遣いを部下にさせたか。

ターニャは自責の念と共に軽く頭を振る。

「ああ、ちょっと寝つきが優れなかった。過労かもしれんな」

指揮官の面子から、少しばかりの強がり。顔に張り付けたものとしては、そんなところだろうか。

「目覚ましの珈琲を淹れてくれると幸いだ」

「はい、ただ今。ですが、お休みになられたほうが……」

「ただでさえ、後方にいるのだ。戦地ほど疲れるわけではない」

前向きな言葉を口に出し、肩をすくめてのそれ。

帝都でゆっくりしている割に、ストレスフルな事実は否めないが……戦場でこの問題に相対するよりは余程ましではある。

「中佐殿、その割には……その、帝都ではあまり落ち着かれませんか……?」

「そういうわけではない。ただ、忙しすぎるのが問題とはいうべきだろうが。昨今の後方での現状を思えば……今更だな」

ターニャにしてみれば、帝都で世論のお花畑ぶりに辟易した……とは流石に口外しかねての発言だった。けれども、字句通りに受け取ったらしいセレブリャコーフ中尉は大真面目に頷く。

「その、よろしければ休暇を取られては? レルゲン大佐殿でしたらば、申請もお認め下さるかとは思うのですが。……折角ですし、帝都を堪能されては」

「西方への展開命令が出ている状況では、悠長に休暇も取りにくい。折角の気持ちはありがたいが、任地にたどり着いてからだな」

忙しい時期、任務に加えて『世論と感情論』だ。ターニャのように、極度な合理主義者にとってみれば職務だけの方が簡単、簡明、何にもまして気楽極まりない。

だからこそ、はぁ、とターニャはため息を零す。

当人としては、気心の知れた副官の前のちょっとした気の緩み。

かくて、頭を振り意識を切り替えて職務へと励行だ。

だが、それでも現実は揺るがしようがない。帝都に帰還後、ターニャの体調は控えめに言っても『悪化』した。何より顕著だったのは機嫌だ。

ターニャ個人の名誉として言うのであれば、ターニャはかなう限り最大限に抑制のための努力は行った。ほとんど、完璧だったといってもいい水準だろう。なにせ、外面というのは社会人の基本である。

けれども、それは、すぐそばの副官を欺けるほどではない。

ブツブツと小言を口の中で弄び、人前では完全に抑えているもののイライラと秘蔵のチョコを齧る姿まで副官は見た! 見たのだ!

『後方暮らし』で『ストレス』をためる上官の姿を!

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