『うそ、うそ、うそ、片岡義男(文芸・小説)』の電子書籍一覧
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真っ赤な、までは行かない嘘とは、どのようなものか?
この小説のタイトルを確認してから読み始めれば、
その「嘘」というのはおそらくこのことだろう、
という察しは、たいていの読者にはつくのではないか。
だからその「嘘」はそれほど巧妙に仕組まれたものではない。
そのことよりも、男が2人、女が1人というその力関係と
女性が持つ魅力のための軽い装置として「嘘」はあると考えていい。
3人がライダーであるならば、いささか大掛かりな「嘘」の仕掛けも
「真っ赤な嘘」までは行かない、ほんのりと赤く染まる程度なのだ。
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
聡明な彼女たちは明言してから静かに去っていく。
なんと挑発的な。あるいは、なんと不愉快な。
おそらく、そのように読むことは十分に自然なことだろう。
身勝手な、イヤな、おまけに嘘つきの、男である。
おまけに反省もしない。同じことを何度も繰り返している。
ただこの男には、嘘をつかないものが1つだけあって、
それは自分の気持ちに対して、である。気持ちを偽ったまま関係を続ける、
ということが彼にはできない。そこが素直と言えば素直だが
別れ方は最悪である。やはり彼女たちは
去り際に頭からコーヒーをぶっかけて行くべきなのだ。
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
3人で食事を愉しむとは、いかなる行為か
待ち合わせをして、3人が食事のためにレストランに集まった。
女性が2人、男性が1人。
1人の女性は男性のかつての恋人であり、もう1人は現在の恋人。
しかも1人の女性からもう1人の女性へ
男性を「譲渡」(!)している、というその成り行き。
ワインが、パスタが、3人の旺盛な食欲と身体をかけめぐる。
食事中にもかかわらず(だからこそ?)
裸にだってなってしまう(ただし、想像の中でだ)。
やがてそこにサボテンが・・・
最後まで触覚的な短篇小説である。
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
彼は知らずに後ろに。彼女は知ってて右隣に。
再会は、一つのドラマである。
偶然の再開は、そうそう起こるものではなく、しかし限りなく無に近い可能性とも違う。
奇跡、というほど圧倒的ではないがゆえにゆるやかな幸福感が漂う。
同じ時刻に、同じ道を走ること。
前を走る自動車がなぜか気になる、という現在は、
彼の、あるいは彼女と彼の過去が作動した結果の祝福された現在かもしれない。
10年の時を経て再び彼女は、彼の右隣をキャッチする。
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
私は鏡、鏡は彼女、彼女は私
不可思議な短編小説である。
登場人物は3人。女が2人で男が1人。
しかし女のうちの1人は、確かにそういう女性が存在すると会話の中で示されるだけで実物はシーンの中に現れない。
そしてその現れない彼女と今ここにいるもう1人はとてもよく似ていて、服も共有、部屋も共有、そしてどちらがどちらなのかわからなくなる瞬間がある、というその生活が、女と男の食事中の軽い会話の中で明らかになる。
鏡の中のエロス、としてのポルトレ。
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
1人になって思い返す、ある決定的な痛みについて
時間は、いろいろなものを遠ざける。
ふと呼び出してやろうと思った男性は
組織の奥深くに紛れ込み、電話をつなぐにも手間がかかる。
そして彼には妻ばかりか恋人までいる。
自分より10歳も若く、聡明なその女性。
なかなかに厳しい時間を、それでもひととおり優雅に過ごした主人公の女性は
帰宅し、1人になった時、自分がある決定的なミスを犯したことに気付く。
他人なら誰も責めはしないだろうその「過ち」を
自分だからこそ許せない、その悲しみをここに読む。
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
男はやじろべえ、または夢のような抽象論
男が一人。女が二人。そこには恋愛感情がある。
このような状態はしばしば「三角関係」と呼ばれ、
著しい憎悪や不均衡を呼び込むが、ここではそうではない。
これは三角ではなく、やじろべえだ。
左右にそれぞれの女性がいて、
男は支点に位置し、ひどく安定している。
1対1の付き合いよりも、そのほうが男は安定するのだ。
しかし、二人の女はどうか。
小説の全編を通じて、冷たい雨が降っている。7月だが冷たい雨だ。
そこで彼女たちは火花を散らし、そして時間の経過とともに
微笑も加わる。
その時、男はそこにいない。
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
「見つけたい」「なりたい」と彼は言った
今日的な用語を持ち出せば、性同一性障害、となるだろうか。男性として生まれながら、女性になりたがっている彼。そこには彼自身の意志だけでなく、彼の生き方に理解があり、それどころかあまりの美しさに半ば女の子として育てた母親と姉の存在があり、さらに父親の不在まで付いてくるのだから念が入っている。ただしかし、うまくいかないことが一つある。口紅だ。男性であることを捨てて女性になるのではなく、男性であるままで女性にもなる、というその存在のジャンプに見合う口紅は果たして見つかるのか。
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
存在しないボールは、いつまでも到達しない
いま37歳の人間にとって、ちょうど20年前の17歳は、はるかな過去だろう。しかしそれは同時に、もうそんなに経ってしまったのかと、唖然とするような事態でもあるはずだ。実家の建て直しの前に家族全員が集まることになり、久々に故郷の町に帰ってみると、実家よりいち早く街は大いに市街化し、通っていた高校の建物は跡形もなく消え去っていた。かつて野球部員として上がったマウンドも、今は記憶の中にしかない。そして再会した女性との2ショットも、どんどん遠ざかる過去になる。
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
最高の贈りものは時間である
一日じゅう空を見ていることを可能にするもの、
それも最高の条件で見続けることを可能にするのはいかなる状況か、ということをこの小説は描いている。
どんな高価なプレゼントよりも記憶に残り、消費や購買とも無縁なその成り行き。
読者の皆さんもまた、出典を明らかにすることなく
この短篇とそっくり同じ一日を過ごしてみるとよいかもしれません。
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
Saddam is still playing fun and games with the U.S.A. and not taking the U.S. seriously.(サダムはアメリカを相手にふざけた態度を取り続けています。アメリカの言うことを真剣に受けとめようとはしていないのです。)これは14年前のパパ・ブッシュの演説。アメリカのテレビのニュース番組だけで湾岸戦争を追うという著者の試みを今読み直すと、アメリカの輪郭とそこに映る日本の姿がはっきり浮かんでくる。ことばの海から現代を見つめる視点をピックアップする長編エッセイ。
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