「道徳」の仮面の下で、ヴィクトリア朝は燃えていた。1876年、ロンドン。表向きは清廉と禁欲を標榜する大英帝国の首都で、ある一冊の本が極秘裏に印刷され、選ばれた者の手にだけ渡った。警察に没収されれば即座に破棄される危険を冒しながら、それでも読まれ続けたこの書物が、百五十年の時を超えて今、初めて日本語で蘇る。貴族の娘ルシールは、七歳のときから折檻を知っていた。家庭教師ミス・バーチの膝の上で、父の手で振るわれる白樺の折檻棒の下で、彼女の体は痛みとともに何かを覚えていく。やがてベルギーのウルスラ会修道院に送られた彼女を待っていたのは、神の名のもとに行われる容赦ない懲罰と、信仰という仮面をまとった欲望の数々だった。そして結婚。愛なき婚姻。冷淡な夫への復讐として選んだ禁断の恋。告解室で神父に打ち明けた秘密が、想像を絶する罠へと彼女を引きずり込む。これは単なる官能小説ではない。権威、宗教、性、そして女性の身体をめぐる支配と抵抗の物語だ。ヴィクトリア朝という時代が、その厳格な道徳の衣の下に何を隠し持っていたか――この一冊が、すべてを白日のもとに晒す。痛みの先に、歓喜がある。禁じられているから、美しい。成人向け。性的描写・暴力描写を含みます。