●「法華経」は釈尊の入滅から数百年ほど経った紀元前後のインドで興起しはじめた大乗仏教にも、部派仏教(小乗)のはざまで、何段階かで出来上がった。すなわち漢訳経典は六訳三存といわれ現存するものは『正法華経』『妙法蓮華経』『添品妙法蓮華経』であるが、漢訳法華経によって最後の7品の順番が違うため、法華経はそれぞれ違う経緯で醸成されたものである。この従来の仏教学者の説に、唯識論研究の俊英の著者は「法華経同時成立論」を提起して学会に対峙した。著者は提婆品を除き同時成立説、〝法華経成立論は厳密に言えば仮説に過ぎなく、ある部分が先行して成立したとすれば、その痕跡だけでも認められねばならない〟と提唱した。すなわち、法華経を生む思想基盤があったことは否定できず、それが大部にわたる法華経典ができたわけで、伝来の諸本の構成がことなることが、バラバラに成立したという事実があっても、法華経の思想は同時期に醸成されたものであろう、という説を展開した。
《著者略歴》
1925年(大正14年)東京に生まれる。2012年(平成24年)遷化。東京大学文学部印度哲学科を昭和23年卒業。昭和27年、東京大学大学院退学、昭和62年、文学博士(東京大学)。平成8年、立正大学名誉教授。東京都葛飾区蓮昌寺第33世住職。蓮昌寺の住職として法務にいそしむ中、60年にわたって研究活動を続ける。地位や名誉には執着せず、法華経の教えと日蓮聖人の教えを大切に思い信じ伝えることに使命と責任をもって生涯あたった。
主な著作に
『法華経講義 上 法華三部経略講』さだるま新書シリーズ12(日蓮宗新聞社)
『法華経講義 下 法華三部経略講』さだるま新書シリーズ13(日蓮宗新聞社)
『法鼓-勝呂智静遺稿集』(日蓮宗新聞社)
『初期唯識思想の研究』(春秋社)
『法華経のおしえ日蓮のおしえ』(大東出版社)
『法華経入門』(春秋社)
『新国訳大蔵経 摂大乗論釈』共同校註(大蔵出版)
『唯識思想の形成と展開』勝呂信静選集1(山喜房佛書林)
『法華経の思想と形成』勝呂信静選集2(山喜房佛書林)
『日蓮思想の根本論』勝呂信静選集3(山喜房佛書林)
など多数
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