高峰秀子。昭和の日本映画界を代表する大女優である。5歳でデビューして天才子役の名をほしいままにし、その後大人の女優に成長。出演作品『二十四の瞳』『浮雲』などは映画にくわしくない者でもその名は知っているだろう。誰もが認める輝けるスター。だが、その人生の陰には「5歳の誕生日に実母をなくす」「義母をはじめとする血縁十数人を養うために、ろくに学校に通うこともできず、好きでもなかった女優業を50年にわたって続けるほかなかった」事実があった。本書は、高峰の最晩年に寄り添った養女でありエッセイストでもある著者が、高峰の言葉をエピソードとともに記したものである。稀有の女優が遺した言葉には思わず胸を突かれるものが多い。その一つ、「私は結婚と同時に、家庭を七分、仕事を三分と割り切って、大幅に仕事を減らしました」。31歳の時に、まだ名もなく貧しい助監督でしかなかった松山善三と結婚した高峰。大女優として生きるより、一人の男の妻として生きるほうを大事、幸せと考えたのである。そしてタイトルにもなった「煙のようになって消えていきたいの」。さあ、あなたは、この謎めいた言葉から、どんなメッセージを受け取るだろうか。
(c)斎藤明美/PHP研究所
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