セーフサーチ設定を変更しました
ページの先頭です

『歴史、白水社、その他(レーベルなし)(実用、文芸・小説)』の電子書籍一覧

1 ~60件目/全89件

  • シシィ神話を史料から解きほぐす

    エリーザベト──愛称シシィ。16歳でオーストリアの君主フランツ=ヨーゼフの妃となった彼女は、永遠の若さと美をまとったまま、やがてアナーキストの刃に倒れた悲劇の皇妃として語り継がれてきた。堅苦しいウィーン宮廷の儀礼に順応することを拒み、ハンガリーの精神に強い共感を寄せた一方で、日に何度も体重計に乗っては一喜一憂する強い自己愛の持ち主。無謀なほどに激しい乗馬に励み、風雨のなかを何時間も歩きつづけるような過酷な運動に身を投じ、休む間もなく次の旅に出かけるような「過活動」的性質。こうした神話が幾重にも折り重なるシシィ像の前で、著者のふたりは史料の限界や矛盾を受け止めながら、史実から明らかなかぎりでエリーザベトの姿を誠実に描きなおすとともに、彼女のもうひとつの顔をも照らし出す。皇妃は率直に政治的見解を述べ、ハプスブルク家の過ちや弱点を容赦なく抉り出す詩を書き残していたのだ。そうした事実は、見る人が見たいものを見いだすスクリーンのような存在と化した「シシィ」を現実のほうへと引き戻し、鋭さと痛みを抱え、言葉で世界に抵抗しようとした生身の人間として立ち現われさせる。

    [目次]

    ポッセンホーフェンでの楽しい子供時代?
     両親
     子供時代と青春
    皇帝フランツ= ヨーゼフとの婚約と結婚
     一八四八年革命の影の中での出会い
     イシュルでの婚約
     ウィーンでの結婚式
    ウィーン宮廷での初期の結婚生活
     最初の一緒の旅行
     子供の誕生
     イタリアとハンガリーへの旅
    自由と自己決定への長い道のり
     マデイラ
     コルフ、ヴェネツィア、リゾート地
     皇妃としての使命
     皇太子ルードルフの教育をめぐる権力闘争
    ハンガリーと皇妃の政治的側面
     ハンガリーとのアウスグライヒ
     ブダペシュトでの戴冠式
     ハンガリーへの愛と政治的禁欲
    美しさとその裏側
     美崇拝
     強迫的な痩身願望
     身体トレーニング
    自分探しの旅へ
     エリーザベトと子供たち、バイエルンの親族たち
     皇妃としておこなう公務の重荷
     乗馬
     ギリシアの世界
     安息の地──アキレイオンとヘルメスヴィラ
     落ち着きのない放浪生活
    アナーキストがもたらした死

     暗殺
     ルイジ・ルケーニ
     葬儀と遺産
    性格と生活を映し出す、後世のための詩
     文学的野心
     皇帝との関係
     ハプスブルク家の親族たち
     政治的態度
     ルートヴィヒ二世
     愛の生活
    ヨーロッパの記憶の場としてのシシィ
     記念碑と命名
     エリーザベトの文学像──神話の生成
     エリーザベトに関する「学術上の」取り組み
     映画
     ミュージカル的な解釈
     博物館
     エリーザベトが伝説であり、ノスタルジーの中心人物であるのはなぜか?
    日本語版へのあとがき
    訳者解題
    参考文献一覧
  • 2,772(税込)
    2026/5/15 (金) 配信予定
    著:
    松本祐生子
    レーベル: ――
    出版社: 白水社

    黙する史料に声を与える

    「大祖国戦争」と称される第二次大戦時の独ソ戦は、現代ロシアのナショナル・アイデンティティを構成するきわめて大きな要素だ。露宇戦争においても開戦時、プーチン大統領がゼレンスキー政権を「ネオナチ」と名指したのは、その「特別軍事作戦」の正当性を国民の「大祖国戦争」の神話に訴えかけるためであった。「大祖国戦争」の(大文字の)記憶=神話は、戦時からすでに形成されていったものではあるが、しかし、個々人の戦争の経験と記憶は一枚岩のイデオロギーに回収しつくされるものではなく、そもそもそのイデオロギーが形成される過程にもさまざまな政治的・文化的背景があったのは言うまでもない。
    本書は、戦中に870日以上の「包囲」を経験したレニングラード(現サンクト・ペテルブルク)を主たる舞台とし、この街の労働者の身体、レニングラード防衛博物館、そして都市の祝典をとりあげながら、国家の公的な「歴史」からは取りこぼされてしまう人々の「大祖国戦争」に対する「応答」の痕跡を掬いとる試みである。過去に生きた人々の営為に対して歴史研究は何ができるのか─傷ついた都市と傷ついた住民と、その復興=回復の「歴史」。

    [目次]
     序論 「大祖国戦争」と都市=身体としてのレニングラード
    第一部 傷ついた都市、語られない言葉
     第一章 戦争による身体の痛みと傷―レニングラード包囲下と戦後の女性労働者
      一 レニングラードにおける女性の状況
      二 出産をめぐる状況と疾患
      三 工場労働と女性の身体
      小括
     第二章 政治抑圧下での都市の傷と記念―レニングラード防衛博物館と「レニングラード事件」
      一 レニングラード防衛博物館の開館――包囲解放後の文化事業
      二 展示事業の組織――来館者に着目して
      三 「レニングラード事件」と防衛博物館
      四 レニングラード防衛博物館における記念の展開
      小括
     第三章 「親愛なる」首都における市民の動員―モスクワ創建八〇〇周年記念祭
      一 記念祭の開催をめぐる決定
      二 祝祭空間の形成
      三 歴史に関する文化事業
      小括
    第二部 眼差しを受ける都市、労働する身体
     第四章 遠くから都市をおもう―レニングラードの都市創建二五〇周年記念祭における来賓と祝電
      一 記念祭の概要
      二 招待状の返答
      三 友好協会からの祝電
      四 戦後の建設と発展
      小括
      補論 ウラジーミル・プーチンのレニングラード包囲に関する語り―家族史から見る政治指導者のマスキュリニティ
     第五章 革命と工業化の理念におけるマスキュリニティ―レニングラードの都市創建二五〇周年記念祭と中ソ関係
      一 一九五〇年代のソ連社会におけるマスキュリニティ
      二 一九五〇年代の中ソ関係
      三 北京市副市長馮基平による記念祭への出席
      四 工場労働者
      小括
     結論 戦後のレニングラードにおける日常
      あとがき
      史料・参考文献/註
  • シリーズ2冊
    5,3465,742(税込)

    英国の歴史家によるヴェトナム戦史の決定版

    本書は、第一次インドシナ戦争前夜からサイゴン陥落までの30年を振り返り、開戦から終戦に至る歴史的背景と政治的思惑を事実に即して描写し、戦争の本質に迫った大作である。一つひとつの作戦や戦闘、その結果としての災禍が時間軸に沿って詳細に描かれており、時代の空気が変化していくさまが臨場感をもって伝わってくる。
    著者は25歳のときに初めて、BBCの特派員としてヴェトナム戦争取材に携わった。その後の人生に大きな影響を及ぼした戦争を俯瞰し、その細部を再現しようとしたのが本書である。当時、取材で訪れた土地を再訪し、三年間で米越仏の生存者100人以上にインタビューを行った。生々しい戦闘シーンに加え、兵士や市民の肉声を巧みに構成したことで、50年前のモノクロ写真でしかなかった出来事の断片が現場の人びとの内面とともに浮かび上がってくる。
    英国人という第三者的な立ち位置が、冷徹な筆致、ひいては本書の客観性に利していることは間違いない。戦史ものの体裁をとりながらオーラルヒストリーとしての側面も併せ持つ、稀有な戦史ノンフィクションである。[口絵16頁]

    [目次]
      地図一覧
      本書で採用した記述スタイルに関する注記
      用語解説
      はじめに
    第1章 美女と多くの野獣たち
     1 帝国への執着
     2 ヴェトミンの行進
    第2章 「汚い戦争」
     1 力任せの連中
     2 結果を甘受するワシントン
     3 農民たち
    第3章 存在しなかった要塞
     1 ザップを待ちながら
     2 災いが迫る
    第4章 血の足跡
     1 放棄、もしくは爆撃?
     2 「意志の勝利」
     3 ジュネーブ
    第5章 双子の専制国家
     1 「テロ政権」
     2 「われわれが手にした唯一の男」
     3 好況期
     4 さあ、武器をとれ
    第6章 ちょっとケネディ流
     1 「彼らは国を失おうとしている」
     2 マクナマラ流君主制
     3 レ・ズアン、賭け金を引き上げる
    第7章 一九六三年──二人の大統領のための棺桶
     1 アプバク──小さな戦闘、大きな記事
     2 仏教徒の反乱
     3 殺戮の時間
    第8章 迷路
     1 「全員に行きわたるだけの戦争」
     2 決定を回避する
    第9章 湾に入る
     1 虚偽
     2 タカ派の台頭
    第10章 「いかに進めるべきか、途方に暮れている」
     1 下り道
     2 コミットメント
    第11章 段階的拡大へ
     1 「最低の連中」
     2 新たな人間、新たな戦争
    第12章 「雲をつかもうとして」
     1 兵士と水上スキーヤー
     2 非友軍の砲撃(アンフレンドリー・ファイヤー)
     3 罠と足跡の塵
    第13章 汚職とハッカ油
     1 窃盗行為
     2 統治
     3 導師(グールー)たち
    第14章 「ローリング・サンダー作戦」
     1 石器時代、ミサイル時代
     2 北へ向かって
    第15章 苦労を引き受ける
     1 最良の時、最悪の時
     2 友軍
      写真クレジット
      注記と参照先
  • シリーズ6冊
    6,4358,415(税込)

    名著の誉れ高い「新しい古典」、待望の邦訳!

    ドイツ歴史学の泰斗、トーマス・ニッパーダイによる「19世紀ドイツ史三部作」の第一巻である本書は、世紀の幕開けから普墺戦争まで、ナポレオンからビスマルクまでを網羅し、「新しい古典」として名著の誉れが高い大作だ。
    ニッパーダイは、批判的・社会科学的な歴史学に対して、当時の状況や可能性に基づいて出来事を理解しようとする立場に立った。批判的歴史学の政治史解釈の一面性を鋭く指摘し、よりバランスのとれた解釈に道を拓いたといえる。本書では、政治的な出来事を中心とした叙述に留まらず、かつてカール・ランプレヒトが(「出来事史」に対して)「状態史」と呼んだもの、第二次大戦後の西ドイツでは「構造史」や「社会史」「社会構造史」などと呼ばれたものに、紙幅を大きく割いている。政治から生活・労働・経済・宗教・教育・学問・文化まで、各分野の研究成果を採り入れ、総合的・全体的に把握した圧巻の歴史書。
    ニッパーダイはこの「19世紀ドイツ史三部作」で「ミュンスター市歴史家賞」、「ドイツ歴史家賞」の栄誉に輝いた。図表多数・参考文献収録。
  • 600年にわたる変容の歴史を紡ぐ

    15世紀、農民の娘であったジャンヌ・ダルクは、イングランドに占領されていたフランス領を奪還せよという「神の声」に導かれ、英仏百年戦争の転機となるオルレアン解放を果たす。そして、宗教裁判によって弱冠19歳で火刑に処され、後年には列聖された──。
    魔女狩りのような異端審問や誹謗中傷をのりこえ、史上屈指のヒロインとして聖人になったジャンヌの生涯を、本書では、多様な側面から物語ってゆく。裁判記録、法廷での本人の証言、年代記、書翰など歴史的資料、文学をはじめ、絵画・映画など表象文化に描かれたジャンヌ・ダルク像も網羅し、その実像と象徴的意味に迫る。とりわけ、イエス・キリストの生涯と比較しながら進めてゆく語り口が、比類なき特長だ。
    中世ミソジニー社会で戦った「異性装」の少女は、どのように語られてきたか?
    フェミニズムの視点とともに読み解き、600年にわたって変容されてきた「人生」を紡ぎあげてゆく、実力派作家による博覧強記のナラティヴ・バイオグラフィー。地図・年表・図版多数収録。

    [目次]
    第1章 初めに言(ことば)があった
    第2章 天使たちの話しかたと言葉で
    第3章 小さな、いえ、ほんのつまらぬこと
    第4章 国王の宝
    第5章 いったい、この方はどなたなのだろう。風や湖さえも従うではないか
    第6章 おとめに降伏せよ
    第7章 跳ねる牡鹿
    第8章 黒い騎士
    第9章 金色のマント
    第10章 塔の監獄
    第11章 燃えない心臓
    第12章 永遠の命
     地図:1429年のフランス/1429年のオルレアン/ジャンヌの道程
     年表
     謝辞
     訳者あとがき
     注記/資料
  • ロシア革命から現在まで、「陰の戦争」の攻防を追う

    本書は、英国のMI5、MI6、米国のCIA、ソ連のKGBに連なるスパイたちが繰り広げた二〇世紀の「陰の戦争」を臨場感豊かに描く通史。そして二一世紀、インターネットやAIを駆使したロシアや中国とのサイバー戦を分析、展望する。ハーヴァード大学の世界屈指の研究者による、学術性と物語性を兼ね備えた諜報史の決定版!
    時代はロシア革命から第二次大戦、冷戦、ソ連崩壊、新冷戦、ウクライナ戦争までを網羅。諜報から破壊、暗殺、煽動、情報操作、選挙介入、サイバー攻撃までの知られざる実態、超大国の台頭と衰退、プーチンのロシア、習近平の中国の勃興を俯瞰。
    「マフィア国家」ロシア、「デジタル権威主義警察国家」中国の策謀にどう立ち向かうのか?「この壮大な物語は人間ドラマと悲劇に満ちている……本書は一般読者にも政策決定者にも衝撃を与える内容であり……中国の行動を知るうえで重要な視点を提供する」ブレンダン・シムズ(ケンブリッジ大学教授)。外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』と国際関係専門誌『フォーリン・ポリシー』の最優秀図書に選出。

    【目次】
    第1章  諜報の世紀
    第Ⅰ部 独裁体制と民主主義の衝突
    第2章  東の冷気
    第3章  因果応報
    第4章 スターリンの攻勢
    第Ⅱ部 文明の衝突
    第5章 世界大戦から冷戦へ
    第6章 パズルの迷宮
    第7章 裏切りの風土
     
    第Ⅲ部 兵器の衝突
     
    第8章 戦場
     
    第9章 科学技術
     
    第10章 一〇月のミサイル
     
    原注
  • ピュリツァー賞受賞作品収録、画期的な選集

    一七七六年のアメリカ建国史を黒人奴隷制と差別の視点から捉え直し、最初のアフリカ系黒人奴隷が到着した「一六一九年がアメリカの真の始まり」と位置づけ、学者・詩人・作家・ジャーナリストによる、多様なテーマ(人種、政治から音楽、正義まで)の十八本の論文・詩・短篇を編んだ歴史書。トランプ大統領が「有毒なプロパガンダ」と非難し、ハリス前副大統領が「アメリカ史に絶対に必要な清算行為」と称賛し、大反響と歴史修正主義を巡る大論争が起きた話題作。「プロジェクト」の目標にアメリカの学校に黒人奴隷制を学ぶ教育を定着させることにある。カリフォルニアなどの州は「プロジェクト」を教育カリキュラムに取り込もうとしている。しかし共和党保守派議員はカリキュラムに組み込ませないようにするための法制化を急いでいるという。本書は日本において、アメリカ建国史と黒人奴隷の真実、黒人差別と抵抗の知られざる歴史、トランプによる分断政策の問題点を知りたい読者必読の書だ。編著者は『NY・タイムズ・マガジン』常勤ライター、ハワード大学教授。人種的不正義の報道、学校での人種隔離の存続の研究に取り組んでいる。

    【目次】
    序文 もう一つの起源 ニコール・ハナ=ジョーンズ著
    一六一九年
    ホワイト・ライオン号 クローディア・ランキンの詩
    第1章 民主主義  ニコール・ハナ=ジョーンズ著
    一六六二年
    方位学の娘たち ニッキー・フィニーの詩
    一八八二年
    私を愛すること ヴァイヴィー・フランシスの詩
    第2章 人種 ドロシー・ロバーツ著
    一七三一年
    魔法をかけられて オノレ・ファノン・ジェファーズの詩
    一七四〇年
    エディ・ケンドリックスの「我が人種は持ち堪える」と一七四〇年の黒人法に倣ったガザル風の文章 テランス・ヘイズの詩
    第3章 砂糖 カリル・ジブラン・ムハマッド著
    一七七〇年
    最初に蜂起した人 ユセフ・コムニャカーの詩
    一七七三年
    証拠[親愛なるフィリスへ] イヴ・L・ユーイングの詩
    第4章 恐怖 レスリー・アレクサンダー、ミシェル・アレクサンダー著
    一七七五年
    自由は私自身のためだけのものではない ロバート・ジョーンズ・ジュニアの小説
    一七九一年
    その他の人人々 レジナルド・ドウェイン・ベッツの詩
    第5章 追い出し タイヤ・マイルズ著
    一八〇〇年
    水面を波立たせる バリー・ジェンキンズの小説
    一八〇八年
    南へ売り飛ばされる ジェズミン・ウォードの小説
    第6章 資本主義 マシュー・デズモンド著
    一八一六年
    フォート・モーズ タイヒンバ・ジェスの詩
    一八二二年
    彼の処刑前 ティム・シーブルズの詩
    第7章 政治 ジャメル・ブーイ著
    一八三〇年
    人間としての私たち コーネリアス・イーディの詩
    一八五〇年
    ハリエット・ヘイデンへの手紙 リン・ノッテージの独白
    第8章 市民権 マーサ・S・ジョーンズ著
    一八六三年
    キャンプ ダリル・ピンクニーの小説
    一八六六年
    絶対的大虐殺 ZZ・パッカーの小説
    原注
  • 比較ファシズム論の金字塔

    戦間期ヨーロッパにおいてファシズムの牙城となったイタリア、ドイツ、オーストリア、ハンガリー、ルーマニア、スペイン。これらの諸国がたどった運命は何に由来するのか。
    著者は、歴史家が忌避しがちなファシズムに関する一般理論の構築を歴史社会学の立場から試み、四つの基本的な社会的力の交錯物としてファシズムを理解しようとしている。
    分析の焦点となるのは、政治体制としての「ファシズム」ではなく、運動もしくは人としてのファシスト、そして彼らの価値観に置かれ、しかもそれらが異常心理や未開への回帰ではなく、近代そのものの一側面を尖鋭に表現していると強調する。
    注目すべきは、ファシズムの中間階級テーゼ、ないし下層中間階級テーゼとの対決である。本書が見出したファシズムの中核的支持基盤は、若い男性と国境を脅かされた地域の住民、そして公務員層だった。
    近年、権威主義や極右ポピュリズムの台頭といった新たな問題が浮上してきた。歴史的パースペクティブの下に大胆な図式を提示している本書の意義は大きい。

    【目次】
    日本語版への序文

    第一章 ファシズム運動の社会学
    第二章 戦間期の権威主義とファシズムの台頭を説明する
    第三章 イタリア――元祖ファシスト
    第四章 ナチズム
    第五章 ナチズムに共鳴した人々
    第六章 オーストロ=ファシズム、オーストリアのナチ党
    第七章 ハンガリーの権威主義諸派
    第八章 ルーマニアの権威主義諸派
    第九章 スペインの権威主義諸派
    第十章 結論――ファシストの生死を問う
    監訳者あとがき
    解説(平田武)
    付表

    文献
  • 未来論が流行している。背景には、危機と不確実性がある。一九七〇年代に流行した折には、資源危機と南北対立を受けていた。本書は、著者が二十五年にわたって「未来学」で発見した、さまざまな側面に光を当てる。
    とりわけ、科学的な予測と根拠のない憶測の間に横たわる、未来をめぐって生じる葛藤に、フランクフルト学派の批判理論の観点から光を当てる。
    未来は時間なのか場所なのか、あるいは、時間は円環なのか直線なのか。未来について人々が思考をめぐらせてきた三千年にわたる歴史は近代以降、マルサス的な終末論とテクノオプティミズムの両極端で宙ずりになっている。
    こうした未来論の整理は、未来を論じる学問的素地がほとんどない日本ではより重要である。一九七〇年前後、小松左京、梅棹忠夫らが未来学の創設を目指し、機運が高まった時期もあったが、その後日の目を見ず、現在に至っている。
    預言者からSFまで、ルネサンス・啓蒙思想からテクノトピアまで、人類が夢見た未来を概観するはじめての入門書。オックスフォード大学出版局の入門シリーズ(VSI)の待望の翻訳。
  • ウクライナとソ連・ロシアの現代史、深い闇を照射

    ウクライナでは1932年から33年にかけて、400万人前後が餓死したといわれる大飢饉「ホロドモール」があった。飢饉はソ連全土を襲ったが、とくにウクライナやウクライナ人が多数住む北カフカースなどの被害が甚大だった。ソ連は当時もその後も長らくその事実を否定していたが、飢饉の原因は今日ではほぼはっきりしている。無謀な農業・産業政策と、ウクライナ農民の抵抗と民族帰属意識を弱体化させようとする意図が絡み、人為的につくられたものだった。大量の餓死は、未必の故意による人災以外のなにものでもなかった。
    さらに戦後、ソ連支配が強化されるウクライナで、ホロドモールの記録が隠蔽、改竄され、記憶からも抹消された経緯から、「民族復興の物語」としてのホロドモールに至る現在まで、長期にわたって検証する。
    歴史家(ロシア史)のオーランドー・ファイジズは、「今日、ウクライナとロシアに何が起こっているのかを理解したいすべての人に推薦する」と本書を高く評価している。著者はピュリツァー賞受賞の歴史家・ジャーナリストで、本書はダフ・クーパー賞、ライオネル・ゲルバー賞を受賞している。現在の戦争と両国関係史の闇の奥、1932年~33年の飢餓による大量殺害の実態。ソヴィエト化、文化と民族の破壊、記憶の政治運動も詳述。
  • 尋常ならざる知性の持ち主たちの奮闘記
    演説と文章のプロフェッショナルたちの波瀾の生涯
    世俗の支配層が武人とほぼ同義の西欧中世と違い、ビザンツ帝国では文官・文人が存在感を示した。彼らは、美辞麗句ばかりで中味が空っぽとか、言っていることと腹のなかがまるで違う二枚舌だとか、同時代の西欧人から現代の研究者に至るまで、ことあるごとに非難を浴びせられ、「ビザンツ的」と言えば、権謀術数や虚飾や空虚な議論の代名詞のようなイメージが出来上がってしまっている。だが、それはプロの修辞家として、依頼された仕事を誠実に果たした結果であり、個人としての著作や生き方には、また別の顔があった。
    本書は、八世紀のコンスタンティノープル総主教ゲルマノス一世から帝国滅亡の十五世紀のプレトンまで十四人を取り上げ、マケドニア朝期の反骨の聖職者アレタス、たび重なる政変を泳ぎ切りつつ膨大な著作をあらわしたプセルロスら、毀誉褒貶入り乱れた異才たちの人生を活写する。そして、固定観念から少し離れて、偏見なしに実際のビザンツ知識人の姿に触れ、言葉の力を武器に戦い抜いた生身の彼らの、暮らしと思想をできるだけ彼らが生きた時代のなかで浮き彫りにすることをめざしている。

    【目次】
    地図
     
     1 コンスタンティノープル/2 十一世紀半ばのビザンツ帝国
     
    はじめに
     
    1 先駆的な総主教たち
     一 ゲルマノス一世――イコノクラスムに抗した聖人総主教
     二 ヨハネス七世グラマティコス――総主教は妖術使い
     三 フォティオス―― 「マケドニア朝ルネサンス」の開幕
    2 マケドニア朝ルネサンス期の首都の文人
     一 カイサレイア府主教アレタス――愛書家教会人の武闘派人生
     二 「逸名の教授」――市井の文人の不穏な日常
    3 「ビザンツの平和」の光と影
     一 ヨハネス・ゲオメトレス―― 「再征服」時代の桂冠詩人
     二 クリストフォロス・ミュティレナイオス――都会の片隅から見える風景
    4 ミカエル・プセルロス――「哲学者の統領」の華麗なる宮廷遊泳術
    5 行けば容易に戻れぬテサロニケ
     一 テオドロス・スミュルナイオス――冥界のグルメ弁護人
     二 テサロニケ府主教エウスタティオス――片意地な学者主教は愛されない
    6 ニケタス・コニアテス――帝国衰亡の目撃証人
    7 ニケフォロス・ブレミュデス――ニカイア帝国の知恵袋
    8 テオドロス・メトキテス――哲人宰相の宿す闇
    9 ゲオルギオス・ゲミストス・プレトン――千年帝国最後の奇才
    別表 ゲミストス・プレトン『法律総論』目次
    地図
     
     3 十二世紀半ばのコムネノス朝期ビザンツ帝国/4 テサロニケ市街/5 第三回十字軍、フリードリヒ一世の行軍ルート/6 十三世紀のニカイア帝国周辺部/7 十四世紀半ばのパライオロゴス朝期ビザンツ帝国と周辺
    あとがき
    図版一覧
    文献目録
  • 歴史・人間・帝国

    政治・経済・社会の制度から、科学・文学・芸術の文化までの遺産が、世界で称賛されつづけているイギリスの一九世紀。だが、このヴィクトリア朝には、つねに神話化されたイメージがつきまとう。
    ヴィクトリア朝の人びととは、いったい誰のことを指すのだろうか。この時代を生きた彼ら/彼女らは近代都市社会の多くの課題に初めて直面する一方で、その世界的な行動が帝国という悪しき世界を形づくることにもなった。
    それにしても、なぜヴィクトリア朝は、今なお日本を含む諸国の文化で重要な位置を占めつづけているのだろうか。「ヴィクトリアニズム」と呼ばれる特定の世界観/価値観は正当化できるのか。この時代のイギリスの実像はどのようなものだったのか。そして、その文化は世界にいかなる結果をもたらしたのだろうか。
    本書は、このような問いをめぐって歴史学者が冷静な視点から論じる、ヴィクトリア朝研究の小さな名著である。今後、イギリスという国の歴史的な内情や、その栄光と秘密を知りたい読者、さらに世界の近代史への理解を深めたい読者にとっての必読書になるだろう。
  • 五野井郁夫氏推薦!
    民主主義を守るための必読書

    「歴史の抹消」があなたの教室にも……。優越主義的なナショナリズムの露骨な主張が、歴史教育に取って代わろうとしている。トランプ、プーチン、極右独裁主義が謀る人種・移民・集団殺戮など不都合な歴史の抹消、洗脳と情報操作、学校教育への干渉を、米国の言語哲学者が糾明する。
    「歴史の抹消は独裁者を助ける。なぜなら、そうすることで独裁者は歴史を単一の物語、単一の視点として偽れるからだ。だが、いかなる視点も完全に抹消することは不可能だ。独裁者による歴史の抹消は教育を通じて−-−-つまり、特定の物語を学校教育のカリキュラムから追放したり、ひょっとすると、家庭内でもその物語を語ってはならないとしたりすることによって−-−-である」。
    全米ベストセラーの前作『ファシズムはどこからやってくるか』で旋風を巻き起こした政治的アクティヴィストによる、警鐘と提言の書。「ファシズムの手口を暴き」、「民主主義を守るために、何を知り、どう抗うべきか」(五野井郁夫)、簡潔かつ読みやすい記述で極右独裁主義の策動を徹底検証。米国で大きな波紋を呼んでいる、「反ファシズム」入門。

    【目次】
    序文
     
    第1章 独裁政の作り方
     
    第2章 洗脳
     
    第3章 ナショナリストの陰謀
     
    第4章 至上主義からファシズムへ
     
    第5章 反教育
     
    第6章 古典教育
     
    第7章 歴史の再生
     
    エピローグ
     
    謝辞
     
    訳者あとがき
     
  • 知識への迫害か、「フェイクニュース」の抑制か

    本書は、悪名高いカトリックの「禁書目録」の歴史を総合的に扱った初めての書籍である。
    禁書目録は16世紀の成立から400年にわたる、検閲の歴史上おそらく最も長い歴史を持つ。プロテスタントの著述家の脅威に対し各地で作られた禁書リストに始まり、バチカンに目録省が設立され、恒常的な検閲組織となった。「アートとゴミ」を区別し、「ジャンク」サイエンスやペテン師を暴き、「フェイクニュース」を抑制することを目的としたこの制度は、カトリック諸国の文化的、科学的、思想的発展を阻害したとされ、プロテスタントによる攻撃や侮蔑の対象ともなった。しかし一方で、作成に携わった多くの聖職者、当時の一流の神学者の深い学識と真摯な気持ちを反映したものであったのも事実である。
    結果的にこの教会の試みは失敗したが、検閲の背景を検証し、失敗した理由を学ぶことは、近現代の国家による禁書や思想・文化統制について考える上でも、インターネット社会における表現の自由について考える上でも有意義である。「禁書目録」は決して過去の遺物ではなく、現代の私たちに警告と深い示唆を与えてくれることを、本書は伝えている。

    [目次]
     はじめに
     
    第一部
     第1章 禁書目録以前の検閲
     第2章 禁書目録の誕生
     第3章 禁書目録の発展
     第4章 書籍の検閲方法
    第二部
     第5章 聖書を検閲する
     第6章 魔術と科学を検閲する
     第7章 性、信仰、芸術を検閲する
     第8章 検閲と近代化
     終わりに
      謝辞
      訳者あとがき
     
      参考資料と略称/原注/文献ガイド/写真提供への謝辞および出典
  • アレクサンドリア図書館、ネモ船長の図書室、ヒトラーの蔵書、ボルヘスの書棚……古今東西、現実と架空の〈書物の宇宙〉をめぐる旅。
  • 心身を新たにまなざす

    近年、日本の歴史学で話題になっているもののひとつに「感情史」がある。それは、ひとことで言うなら、思想の歴史と身体の歴史、主観性の歴史と社会的・文化的な歴史とが交錯するアリーナだ。
    今日の私たちが「感情」とみなすもの、つまり、悲しみ、メランコリー、恐怖、喜び、怒り、熱狂、共感、愛……といった精神状態は、言語、文化、信仰、生活様式における長く多様な歴史的変化の産物である。
    そこで著者は、さまざまな感情の観念の変遷を古典古代の史料にまでさかのぼり、ときにはディズニーの映画や著名なポップ歌手、シェイクスピアやワイルドなどの文学作品を例に挙げ、また絵文字についての説明を取り入れたりしながら、一般読者にもわかりやすく論じる。
    本書は、「emotion(エモーション)」という言葉の問題に始まり、感情と道徳/宗教、あるいは感情と医学的な次元の問題などを含め、忘れ去られた感情や近代的な感情体制の構築などの事例を数多く取り上げる。そしてこのように、過去のさまざまな感情のあり方を浮き彫りにし考察することは、現在の私たちの感情へのまなざしに新たな光を当てることになるだろう。

    【目次】
    序文
    謝辞
    第1章 過去の鼓動
    第2章 悲哀の縮図
    第3章 情念から絵文字へ
    第4章 恐怖、そして幸せの追求
    第5章 憤激のすべて
    第6章 愛を探して
    訳者あとがき
    図版一覧
    参照文献と読書案内
  • 騎士道精神と新兵器、近代戦の幕開けの大戦
    「クリミア」をめぐる歴史的背景が分かる!

    19世紀の「世界大戦」の全貌を初めてまとめた戦史。露・英・仏・トルコの地政学と文化から戦闘まで活写した決定版。[口絵8頁]

    転換点としての再評価、現在にまで及ぶ影響

    十九世紀の「世界大戦」の全貌を初めてまとめた戦史の決定版。
    トルストイの陣中日記やナイチンゲールの活躍は有名だが、実態はあまり知られていない。
    地政学的には、滅亡に瀕するオスマン帝国、南下政策を取るロシア帝国、ナポレオンの敗北から立ち直ろうとする第二帝政フランス、アジア市場を確保しようとするイギリス、オスマン帝国支配を脱しようとするバルカン半島のスラヴ諸民族、ロシア支配を脱しようとするカフカスのイスラム諸民族などが、複雑に絡み合う「帝国主義戦争」であった。また、各派に分裂して相互に抗争するキリスト教とイスラム教が連携し、対立する「宗教戦争」でもあった。
    新兵器のミニエ銃が導入され、兵站補給に蒸気船や鉄道が利用され、電報が活用され、新聞報道と世論が重要な役割を果たすという、まさに「近代戦」の始まりであった。
    また、一時休戦して死体の収容に当たるなど、最後の「騎士道」的戦争でもあった。
    現在、ロシアに編入されたクリミアとウクライナ問題をはじめ、二十一世紀の国際紛争を歴史的に理解するための「教科書」ともなる大作。

    [目次]
    第1章 宗教紛争
    第2章 東方問題
    第3章 ロシアの脅威
    第4章 「欧州協調」の終焉
    第5章 擬似戦争
    第6章 ドナウ両公国をめぐる攻防
    第7章 アリマ川の戦い
    第8章 秋のセヴァストポリ
  • シリーズ2冊
    7,92010,890(税込)

    「ヒトラー研究」の金字塔、評伝の決定版!

    学識と読みやすさを兼ね備え、複雑な構造的要因の移りゆきを解明。英国の泰斗による圧巻の評伝(全2巻)。世界28カ国で刊行、ロングセラーを記録、待望の邦訳! 上巻は誕生から独裁成立までの前半生を活写。口絵写真32頁収録。

    「ヒトラーの歴史は、したがってヒトラーの権力の歴史として書かれなければならない。いかにしてヒトラーが権力を手にしたか、その権力の特質は何だったか、ヒトラーはその権力をいかに行使したか、なぜヒトラーはあらゆる制度上の障壁を越えてその権力を拡大しえたか、ヒトラーの権力に対してなぜあれほど弱い抵抗しかみられなかったのか。ただし、こうした問いは、ヒトラーだけではなく、ドイツ社会に向けられねばならない。」
    (本文「ヒトラー省察」より)
    [内容詳細]
    本書(全2巻)は、歴史における個人と社会構造の双方を重視しており、従来のヒトラー研究にありがちな、ヒトラーを「悪」としたうえで、それを中心にナチ時代を再構成するアプローチは採らない。一見、ヒトラーの個人的性格から生じたかにみえる破壊衝動も、社会構造史の研究成果を踏まえつつ、ナチ体制の本質に規定されたものとして捉えている。そして、ヒトラーに無制限な権力を委ね、それを維持させた複雑な政治・社会構造を、さまざまな逸話を織り交ぜて解き明かしていく。その筆致は、読者を惹きつけてやまない、ある種の「サスペンス」に満ちており、まさに英国の歴史家らしい、物語的な書きぶりといえるだろう。本書がヒトラー伝の「決定版」と評価されるのは、根底に著者の長年にわたる徹底した史料渉猟があり、ドイツ史を知り尽くした歴史家ならではの、冷静かつ精密な分析、目配りの効いた記述ゆえだろう。
    本書上巻は、ヒトラーの誕生から独裁成立までの前半生を活写。ドイツ現代史、ナチズム研究の世界的権威による圧巻の評伝。世界28ヵ国で刊行、ロングセラーを記録、待望の邦訳!

    [目次]
    凡例
    序文
    謝辞
    ヒトラー省察
    第1章 夢と挫折
    第2章 転落
    第3章 高揚と憤激
    第4章 才能の発見
    第5章 ビアホールの扇動家
    第6章 「太鼓たたき」
    第7章 指導者(フューラー)の登場
    第8章 運動の掌握
    第9章 躍進
    第10章 権力に向かって
    第11章 独裁体制の確立
    第12章 権力の全面的掌握
    第13章 総統のために
    口絵写真一覧
    参考文献
    原注
    略語一覧
    [原題]Hitler 1889-1936:Hubris
  • 戦後ドイツの「犠牲者」認識の変遷を追う

    日本でも、特攻隊員や被爆者、空襲被害者など、さまざまなカテゴリーの「犠牲者」を通して戦争が記憶されてきたように、戦後の国民意識が形成されてきた。犠牲者言説の変化は戦後ドイツの国民形成と密接な関係にある。
    戦後のドイツ人はナチズムの「加害者」としての過去に向き合いながら、戦争の「犠牲者」としての認識も持っていた。特に戦後世代が多数を占めるようになると、この「犠牲者」意識は重要視されるようになった。本書は1980年代以降に「犠牲者」概念が頻繁に用いられるようになった背景を分析し、「犠牲者の歴史政治学」を提唱する。
    本書は〈犠牲者・加害者〉という二元論ではなく、〈加害者・能動的犠牲者・受動的犠牲者〉という三分類で過去を理解すべきだとする。「白バラ」やヒトラー暗殺未遂犯、ソ連兵の性暴力被害者、強制追放された者など、多様な犠牲者像の変遷を追う。1980年代以前、暗殺未遂犯は肯定的評価を受けず、性暴力の被害も封印された。一方、ソ連侵攻による追放者は冷戦下で「能動的犠牲者」として語られた。
    1980年代以降、ホロコーストが世界史的事件として認識され、「ホロコースト・モデル」が確立すると、受動的犠牲者が歴史の中心となり、性暴力や追放の被害者も語れるようになった。この変化は戦後ドイツの国民形成と密接に関わる。
    この問題は日本にも通じる。
    日本でも、特攻隊員や被爆者、空襲被害者など、さまざまなカテゴリーの「犠牲者」を通して戦争が記憶され、戦後の国民意識が形成されてきた。本書は、ドイツの「過去の克服」と犠牲者概念の変遷を明らかにする意義深い研究である。

    【目次】
    序章
     1 ナチ時代のドイツ国民=「犠牲者」?
     2 犠牲者概念
     3 本書の目的
    第1章 反ナチ抵抗犠牲者とその戦後
     1 ヒトラー暗殺未遂事件の「七月二〇日の男たち」
     2 「白バラ」抵抗運動
     3 ヒトラー爆殺計画事件の単独犯──G・エルザー
     4 反ナチ亡命者
    第2章 追放と性暴力
     1 終戦期の被追放者
     2 非追放者の表象
     3 追放の受動的犠牲者から復興の能動的犠牲者へ
     4 性暴力犠牲者とその戦後
    第3章 反ナチ抵抗犠牲者の記憶
     1 「抵抗」範疇の拡大──エーデルヴァイス海賊団とG・エルザー
     2 「七月二〇日の男たち」と「白バラ」の記憶の構造転換
     3 英雄から救済者へ
    第4章 追放の記憶
     1 よみがえる記憶とその政治化
     2 ポピュラー・カルチャーのなかの被追放者
    第5章 性暴力犠牲の語りとトラウマ
     1 性暴力犠牲の語り
     2 戦争児とトラウマ
    終章
     1 本書のまとめ
     2 〈犠牲者の歴史政治学〉の意味と意義
     3 〈犠牲者の歴史政治学〉と「私たち」
     あとがき/注
  • 写本が語る、中世の人々の人生と心情

    中世写本とは、書かれたテクストであると同時に、テクストの作者から写字生・画工、パトロン=注文主、後の所有者や再発見者まで、かかわった人々の個人史の集積体でもある。たとえばヘンリー八世が作らせ所有していた詩編集には、聖書を題材にしつつ当時の政治を反映した挿絵があり、王の心情を物語る書き込みがなされていた。
    写本文化は、注目を集め歴史に名の残るパトロンや著者だけでなく、膨大な数の無名の人々に支えられてきた。そしてそのなかには、他人の作とされないよう自分の存在を暗号にして写本に残した人や、名前もわからないが特徴のある画風からキャリアの推測がなされている人のように、あるいは二度焼け出された本のように、さまざまな形で写本の中に人生のなにがしかが、かいま見える場合がある。本書はそうした有名無名の男女の人生と、その作品である写本の生涯を、カラー口絵とともに読んでいく。そして同時に、さまざまな女性著者の作品と、それがときに社会的地位に左右されて数奇な運命をたどった(後世の女性写本研究者の業績すら例外ではない)経緯を拾い上げた、一種の「写本にまつわる中世ジェンダー史」でもある。

    [目次]
    はじめに
    プロローグ 羊皮紙錬成
    第1章 発見
    第2章 惨事すれすれ
    第3章 写本の注文主(パトロン)たち
    第4章 画工(アーティスト)たち
    第5章 写字生と書記たち
    第6章 写字生と著者の関係
    第7章 隠れた著者たち
    エピローグ 写本の衰退
    あとがき 過去の使用と誤用
    謝辞
    年表
    監訳者あとがき
    用語集
    図版一覧
    文献目録
    原註
  • 破滅は、冷たく、ゆるやかに進行する
    著者は二十世紀のドイツを代表する反ナチズムのユダヤ人作家の一人。一九三三年、ナチスによって国籍を剝奪され、亡命したフランスでヴィシー政権によって収容所に抑留された。本書は、四〇年五月に南仏レ・ミル収容所に拘留されてからニーム近郊で解放されるまでの過酷な体験の一部始終を綴った記録である。
    フランスがドイツに宣戦布告した一九三九年九月以降、フランス国内のドイツ人、ユダヤ人、無国籍者は「敵性外国人」とされ、フォイヒトヴァンガーも煉瓦工場跡に収容され労働を課された。早朝に起床すると、仮設便所の前には長蛇の列。やがて羞恥心は麻痺し、排泄も野放図になる。「われわれは排泄物の中で生きている」という言葉に象徴される劣悪な待遇や凄惨な体験を時系列的に報告するドキュメントの体裁をとりながら、捕虜仲間とともにすべてを受け入れ、甘受せざるをえないほどに切迫した事態を描き出す。
    著者が見出す「フランスの悪魔」とは直接的な暴力でなく、他者の苦悩への冷淡さや官僚的無気力に潜む悪意であり、ヴィシー政権は、この悪魔性ゆえにナチスと結託したと断じる。人間性の脆さを鋭利に描き、戦争と時代の暗部に迫る第一級の史料。

    【目次】
    フランスの悪魔―ある体験記
     レ・ミルの煉瓦
     第一夜
     バイヨンヌの船舶
     第二夜
     ニームのテント
     第三夜
     マルセイユの庭園
    日記 一九四〇年
     レ・ミル 一九四〇年
     幽霊列車
     ニーム収容所
     マルセイユ
    手紙
    逃避行 マルタ・フォイヒトヴァンガー
    補遺
    訳者あとがき
    原注
  • 全米図書賞受賞作品、ロシア人と社会の真実の物語

    ソ連崩壊後の4半世紀の間、とりわけ長期にわたって支配が続くプーチン時代の激変、クリミア併合からウクライナ戦争に至る底流にはなにがあるのか?
    1980年代に生まれ、プーチン時代に成人したジャーンナ(父親ボリス・ネムツォフ)、マーシャ、セリョージャ(祖父アレクサンドル・ヤコヴレフ)、リョーシャの男女4人の人生と家族の群像が活写される。そして精神分析医アルトゥニャン、世論調査機関レヴァダ・センターの社会学者グドコフ、プーチン時代に頭角を現す極右思想家ドゥーギン(3人はロシア社会を理論的に分析する役割)の軌跡を加え、波乱の時代を紡ぎ出す。
    プーチン政権を歓迎した多くのロシア人は、安定と権威を渇望するようになった。プーチン時代は法が恣意的に運用され、人びとは恒常的な不安状態に置かれる。市民をそのような状態に置いておくのは、全体主義の要諦なのだ。それはソ連時代の「ホモ・ソヴィエティクス」(思考停止・体制依存型人間)が死滅していなかったことを示している。まさに「再発性全体主義」が支配する社会になったのだ。
    ハンナ・アーレント賞受賞ジャーナリストによる、渾身のノンフィクション!
    [目次]
     登場人物
     プロローグ
    第1部 ソ連に生まれて
     第1章 一九八四年に生まれて
     第2章 試された人生
     第3章 特権
     第4章 ホモ・ソヴィエティクス
    第2部 革命
     第5章 白鳥の湖
     第6章 ホワイトハウスの処刑
     第7章 だれもが富豪になりたがる
    第3部 ほころび
     第8章 抑圧された悲しみ
     第9章 懐かしの歌
     第10章 再び振り出しに
    第4部 復活
     第11章 死後の生
     第12章 オレンジ色の脅威
     第13章 家族・性・権力
    第5部 抗議
     第14章 奪われた未来
     第15章 ブードゥシェヴォ・ニエト
     第16章 白いリボン
     第17章 マーシャ 二〇一二年五月六日
    第6部 弾圧
     第18章 セリョージャ 二〇一三年七月一八日
     第19章 リョーシャ 二〇一三年六月一一日
     第20章 分断された国民
     第21章 ジャーンナ 二〇一五年二月二七日
     第22章 永久戦争
     エピローグ
     謝辞
     訳者あとがき
    原注/本書に関係する時代の主な出来事(一九八五~二〇一五年)
  • 最新の知見や解釈を盛り込んだ恰好の入門書
    「ホロコースト」とは、ナチ政権とその同盟国や協力者によるヨーロッパのユダヤ人およそ六〇〇万人に対する組織的迫害と大量殺戮を指し、その半数以上が絶滅収容所で命を落とした。それは人類に対する犯罪であり、今日に至るまで極めて深刻な問いを投げかけ、戦後ドイツでは、その記憶を風化させないための政治教育が重要な地位を占めている。本書はそのような教育のために、現在のホロコースト研究の成果を踏まえ、反ユダヤ主義の前史とイデオロギーから、ユダヤ人の迫害・排除の諸段階、絶滅政策と大量殺戮の実態、加害者と組織の役割、抵抗運動と支援、他の集団犯罪、戦後の裁判と記憶の問題までを網羅し、101の質問に回答する形式で概説している。簡潔ながら要所を押さえた内容で、ホロコーストの全体像を的確に学ぶことができ、日本でも高校生から一般読者まで幅広い読者を対象とする教養書。
    著者はフリッツ・バウアー研究所の研究員。ナチズムとホロコーストの歴史、ナチスのポーランド占領政策、反ユダヤ主義などを研究分野とする歴史学者。訳者は『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか』の共著者。

    [目次]
    序文
    前史とイデオロギー
    1 ホロコーストとは何を意味するのか?
    2 反ユダヤ主義はナチスの発明か?
    3 ナチスは誰をユダヤ人と見なしたのか?
    4 人種衛生学とは何か?
    5 ホロコーストは「ユダヤ人問題」に対する答えだったのか?
    6 ユダヤ人の世界陰謀は入念に記録されたのか?
    7 ヒトラーの『わが闘争』はホロコーストの運行計画だったのか?
    8 ウィントフックからアウシュヴィッツへは一本道だったのか?
    迫害と排除
    9 「アーリア人条項」は何を規制したのか?
    10 一九三三年四月一日にユダヤ人商店がボイコットされたのはなぜか?
    11 非ユダヤ系ドイツ人女性が反ユダヤ法によって職を失ったのはなぜか?
    12 「人種恥辱」とは何を意味していたのか?
    13 ポグロムの夜とは何だったのか?
    14 なぜすべてのユダヤ人がドイツを脱出しなかったのか?
    15 「半ユダヤ人」とは誰か?
    16 ヒトラーは一九三九年一月三〇日にホロコーストを予告したのか?
    17 「アーリア化」とは何だったのか?
    18 すべてのユダヤ人は黄色い星を付けなければならなかったのか?
    19 マダガスカルはホロコーストとどんな関係があるのか?
    20 ユダヤ人住宅に住んでいたのは誰か?
    21 セントルイスはどの程度ユダヤ人にとって希望の光だったのか?
    22 パスポートに「J」のスタンプが付いたのはなぜか?
    23 ドイツのユダヤ人はすべてザラかイスラエルという名前でないといけなかったのか?
    24 ゲットーとは何だったのか?
    25 ゲットーで多くのユダヤ人がチフスにかかったのはなぜか?
    26 ナチスのプロパガンダは「永遠のユダヤ人」という言葉で何を言おうとしたのか?
    絶滅
    27 本当に六〇〇万人のユダヤ人が殺されたのか?
    28 ツィクロンBとは何だったのか?
    29 ガストラックはどのように機能したのか?
    30 親衛隊はユダヤ人を殺し、国防軍は前線で戦ったのか?
    31 「作戦」とは何だったのか?
    32 なぜ加害者たちはユダヤ人の殺害を「特別措置」と呼んだのか?
    33 ナチスは「ユダヤ人問題の最終解決」という言葉で何を言おうとしたのか?
    34 ゾンダーコマンドとは何だったのか?
    35 カナダはアウシュヴィッツとどんな関係があるのか?
    36 手の動き一つで生死が決まることはどの程度あったのか?
    37 荷積場とは何だったのか?
    38 「ラインハルト作戦」とは何だったのか? またその名前の由来は何か?
    39 絶滅収容所とは何だったのか?
    40 なぜ絶滅収容所は占領下のポーランドに設立されたのか?
    41 「労働による絶滅」とは何を意味していたのか?
    42 鉄道はユダヤ人に自分たちの強制移送の切符を売ったのか?
    43 ドイツ人は本当にホロコーストのことを何も知らなかったのか?
    44 なぜアウシュヴィッツは爆撃されなかったのか?
    45 ゾンダーコマンド1005とは何だったのか?
    46 殺人を望まない者は自分も殺されたのか?
    47 ホロコーストは工業的な大量殺戮だったのか?
    48 ナチスはユダヤ人の財産を奪うために彼らを殺害したのか?
    49 「銃弾によるホロコースト」とは何だったのか?
    50 ヤヌシュ・コルチャックは進んで死に向かったのか?
    51 「交換ユダヤ人」は誰と交換されることになっていたのか?
    52 「総統はユダヤ人に街を与えた」のか?
    53 強制収容所の収容者たちはどういう意味で「ムーゼルマン」という言葉を使っていたのか?
    54 なぜ終戦間際のドイツで多くの「シマウマ」が「ウサギ狩り」の犠牲になったのか?
    関係者
    55 机上の犯罪者は何をしたのか?
    56 加害者たちはなぜホロコーストを「良き時代」として回想したのか?
    57 加害者はどれくらいいたのか?
    58 ヒトラーがいなければホロコーストはなかったのか?
    59 加害者たちは「普通の男たち」だったのか? それとも「普通のドイツ人」だったのか?
    60 ホロコーストは男性のプロジェクトだったのか?
    61 プリーモ・レーヴィは一九八七年にホロコーストの「遅れた犠牲者」になったのか?
    62 ドイツのユダヤ人がみなユリウス・シュトライヒャーを知っていたのはなぜか?
    63 トラヴニキとは何だったのか?
    64 なぜローマ教皇はホロコーストについて沈黙を守ったのか?
    65 IGファルベンとは何だったのか?
    組織と事件
    66 ホロコーストを組織した本部は存在したのか?
    67 親衛隊は「国民のアリバイ」にすぎなかったのか? それとも大量殺戮の精鋭部隊だったのか?
    68 ユダヤ人評議会とは何だったのか?
    69 ユダヤ人警察は存在したのか?
    70 アインザッツグルッペンの任務とは何だったのか?
    71 ユダヤ人の殺害は会議で決定されたのか?
    抵抗と支援
    72 ワルシャワ・ゲットーの蜂起とは何だったのか?
    73 「シンドラーのリスト」とは何のリストだったのか?
    74 トゥヴィア・ビエルスキはどのように命令を拒否して何百人もの命を救ったのか?
    75 ユダヤ人は「羊のように屠殺場に」向かったのか?
    76 なぜハイカ・グロスマンの髪の色はユダヤ人の抵抗運動にとって重要だったのか?
    77 リンゲルブルム・アーカイブとは何だったのか?
    78 ベルリンの中心部で潜水艦が航行していたのはなぜか?
    79 盲目の人が出来事をはっきりと見ることのできる少数者の一人だったのはなぜか?
    80 「諸国民の中の正義の人」とは何だったのか?
    81 抗議の声を上げた女性たちは夫たちの強制移送を回避することができたのか?
    他の集団犯罪
    82 「T4作戦」という偽装された略称の裏には何が隠れていたのか?
    83 患者の殺害はユダヤ人の殺害のリハーサルだったのか?
    84 フォン・ガーレン枢機卿は安楽死殺人を止めたのか?
    85 シンティとロマはユダヤ人のように扱われたのか?
    86 国防軍は戦死したソ連の兵士の四人に一人を捕虜収容所で殺害したのか?
    87 まずユダヤ人、次にスラブ人を殺害するつもりだったのか?
    余波と記憶
    88 どれくらいの人々が生き残ったのか?
    89 ユダヤ人が解放後も収容所に住んでいたのはなぜか?
    90 終戦後もユダヤ人が殺されたのはなぜか?
    91 多くのナチ犯罪者が一九四五年以降にバチカンに行こうとしたのはなぜか?
    92 ルートヴィヒスブルクが多くの加害者に嫌われ恐れられたのはなぜか?
    93 なぜアドルフ・アイヒマンはエルサレムで裁判にかけられたのか?
    94 アウシュヴィッツ裁判とは何だったのか?
    95 ホロコーストの被害はどのように「補償」されるべきとされたのか?
    96 ホロコーストは大きな嘘なのか?
    97 ホロコーストは再び起こりうるのか?
    98 追悼の場とは何か?
    99 一月二七日が追悼の日とされているのはなぜか?
    100 「ホロコースト記念碑」とは何か?
    101 アンネ・フランクの日記はなぜこれほど有名なのか?
     訳者あとがき/参考・引用文献(抜粋)
  • 小泉悠氏推薦! 円熟の大家による精彩な戦史

    二月革命から、十月革命、反革命派の抵抗と軍事衝突、赤軍と白軍の内戦、欧米や日本の軍事介入、虐殺と報復の連鎖、大規模なポグロムまで、物語性と学術性を兼ね備えた決定版!
    戦争は国家間の怨念、民族間の憎悪、階級間の闘争などの要素が複雑に絡み合って生ずる事象だ。ロシアでは極端な主張をする勢力が優勢となり、そのレトリックと暴力は悪循環となって亢進した。(その過程が、最終的にはヒトラーによる政権奪取と第二次世界大戦の勃発に至る。)ロシアの内戦は、中央集権主義と地方主義の対立、権威主義と自由主義の抗争などが関係し、「凝縮された世界戦争」とも言うべき戦闘だった。
    この凄まじい歴史は重要な教訓を数多く残している。第一に、外国の戦争に介入することの危険性だ。介入に至るまでの雑多な動機が判断の間違いを生み、非生産的な結果を招来した。外国政府が白軍の側に立って介入したことは共産党の支配を弱めるどころか強化する役割を果たした。あらゆる人々の運命を不可逆的に変えてしまった。そして、全過程を通じて、男性の支配する政治から最悪の被害をこうむったのは女性と子供たちだった。

    【目次】
     序言
    第1部 一九一二~一九一七年
     第1章 自殺する欧州──一九一二~一九一六年
     第2章 二月革命──一九一七年一月~三月
     第3章 墜落した双頭の鷲──一九一七年二月~三月
     第4章 独裁から混沌へ──一九一七年三月~四月
     第5章 妊娠した寡婦──一九一七年三月~五月
     第6章 ケレンスキー攻勢と七月情勢──一九一七年六月~七月
     第7章 コルニーロフ──一九一七年七月~九月
     第8章 十月クーデター──一九一七年九月~一一月
     第9章 少年十字軍士官候補生の反撃──一九一七年一〇月~一一月
     第10章 嬰児殺しとしての民主主義圧殺──一九一七年一一月~十二月
    第2部 一九一八年
     第11章 旧体制との訣別──一九一八年一月~二月
     第12章 ブレスト・リトフスク講和──一九一七年十二月~一九一八年三月
     第13章 極寒を衝いて進軍する義勇軍──一九一八年一月~三月
     第14章 ドイツ軍の進撃──一九一八年三月~四月
     第15章 国境付近の攻防戦──一九一八年春と夏
     第16章 チェコ軍団と社会革命党(エスエル)左派の反乱──一九一八年五月~六月
     第17章 赤色テロル──一九一八年夏
     第18章 ヴォルガ川流域の戦闘と赤軍の進撃──一九一八年夏
     第19章 ヴォルガ川流域からシベリアへの戦線移動──一九一八年秋
     原注/略号/用語集
  • 北海道の近代を支えたものは?
    封印された「開拓」と「軍」──そのかすかな声に耳を澄ませながら、北海道の歴史を歩く。古地図多数。
  • 《現代史アーカイヴス》として復刊

    1927年5月21日、初夏を迎えたアメリカで、20世紀を代表する出来事のひとつとなった偉業が達成された。ニューヨークを離陸した若き飛行士チャールズ・リンドバーグがパリに到着、世界初の大西洋単独無着陸横断飛行に成功したのだ。そして夏も終わろうとしていた9月30日、アメリカはもうひとつの快挙にわいた。ニューヨーク・ヤンキースのベーブ・ルースがシーズン60号ホームランを放って大リーグ記録を塗り替え、鮮烈な記憶を人々の心に刻んだ。1927年のこの5カ月間、それは20世紀のアメリカにとっていちばん熱い夏だった。
    向こう見ずな冒険、常軌を逸した情熱、底知れない楽天主義と悪徳の栄え――。著者は、1927年の夏を駆け抜けた有名無名の人々の生きざまを、ウィットとユーモアを織り交ぜた軽妙な語り口で色彩豊かに描き出し、悲喜劇とも言うべき群像劇に仕立て上げていく。本書は、アメリカという大国が初めて世界の表舞台に存在感を示した5カ月間の、情感豊かな歴史物語である。「ひと夏」という小さな窓から激動の20世紀の胎動を展望した傑作。解説=白岩英樹(高知県立大学准教授)

    [目次]
    プロローグ
    5月 ザ・キッド
    6月 ザ・ベーブ
    7月 大統領
    8月 無政府主義者(アナーキスト)たち
    9月 夏の終わり
    エピローグ
     原注/謝辞/訳者あとがき/写真クレジット/出典に関する注と読書案内
    [原題]ONE SUMMER: America 1927
  • 清末史を記述する新たな地平

    巨大帝国・清に未曾有の衝撃を与えた1894年の日清戦争から1912年の王朝滅亡までの激動の時代を、近年続々と世に出てきた最新の史料と基本文献に基づいて再現する壮大なドラマ。教科書的な通史でもなく、革命を賛美するプロパガンダでもなく、史実に目をつぶった文芸作品でもない、これまでにない清末史である。
    中国における古代と近代の結節点である清末には、現代を含む歴史的中国のあらゆる要素が凝縮されていると言っても過言ではない。対象となる19年間には、戦争、宮廷闘争、動乱、革命が相次ぎ、群雄、群衆がうごめきあって、数千年続いた王朝の時代を押し流していく。
    西太后、袁世凱ら主要人物のほか、皇族、官僚、宦官、維新派、軍人、義和団の民衆、孫文ら革命家など、本書に登場する周辺の人物も実に個性豊か。この時代にきわめて重要な役割を演じた日本をはじめ、列強の動き、社会、経済事象などを含め、サイドストーリーもふんだんに盛り込まれている。

    『紫禁城の黄昏』以来の清末定型の情緒的イメージを排し、さまざまな力が己の生存をかけてぶつかり合う激しい時代を生き生きと描き切った傑作。

    [目次]
      はじめに
    第一章 北洋艦隊、全滅
     戦争と祝典
     黄海海戦
     垂簾聴政
     威海衛の弔砲
    第二章 改革か、亡国か
     下関の李鴻章
     康有為と袁世凱
     弱肉強食
     「母と子」
    第三章 戊戌の政変
     帝師解任
     孤独な変革者
     法華寺の夜
     皇帝、幽閉さる
    第四章 義和団の乱
     扶清滅洋
     迫る拳民
     殺戮と御前会議
     奇妙な戦争
    第五章 西への逃避行
     珍妃殺害
     「狩り」の旅
     新政と条約
     帰還
    第六章 東に学べ
     慈禧観音
     近代化の模範
     同盟会成立
     権力闘争
    第七章 慈禧太后、死す
     蛹(さなぎ)
     ヒ素と飴と玉
     虎口を脱す
     皇族内閣
    第八章 辛亥革命
     鉄道国有化
     武昌蜂起
     復活
     孫文、帰国
    終章 最後の詔(みことのり)
     中華民国
     皇帝が消えた日
      あとがき/注/参考・引用文献/主要登場人物/清朝系図/関連略年表
  • なぜイギリスで最初に起きたのか?

    「産業革命」をめぐっては、長い論争の歴史がある。
    なぜ、産業革命は、1800年ごろまでは優勢だったアジアではなく、ヨーロッパ、なかでもイギリスで最初に起こったのか。産業革命が「革命」と言われるのはなぜか。産業革命によって人びとの生活はどのように変化したのか。
    その歴史的な前提条件や影響を考察することは、グローバル化のなかでの格差や貧困の拡大、奴隷制の過去や人種差別の存続、そして気候変動や環境破壊といった現代の構造的問題を問うことにもつながる。
    本書は、狭義の経済史的アプローチだけではなく、グローバル・ヒストリー、環境史、科学史、社会史・文化史など多様なアプローチを通じて、産業革命の歴史を概観している。
    総じて、本書では、「産業革命はなかった」とされてきた修正主義的な見解に対して、新たな観点からの産業革命の意義を擁護している。
    産業革命はもっとも重要なテーマであるにもかかわらず、日本では意外と真正面から論じた本が少ない。本書は、この間の論争や研究成果をもとに産業革命を論じた最良の一冊である。『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』などで知られる世界的権威による記念碑的著作!

    [目次]
     謝辞
    第1章 過去と現在
    第2章 産業革命の前提条件、一五〇〇~一七五〇年
    第3章 なぜ産業革命はイギリスから始まったのか?
    第4章 イギリスの変容
    第5章 改革と民主主義
    第6章 産業革命の世界的拡大
    訳者解題
    出版社による謝辞
    読書案内
    参照文献
    図版一覧
  • 人々はいかにして料理し、食べ、生き延びたか

    最後の皇帝一家と運命を共にした宮廷料理人から、サナトリウムの料理人だったプーチン大統領の祖父まで。「食」の視点からロシアという国を多面的に読み解く話題作。
    二〇〇九年、アブハジアにあるかつてのスターリンの別荘を訪れた著者は、そこで働く人々から「スターリンは普通の人たちと同じように食べていた」と聞かされる。「本当にそうなのか?」と疑問に思ったことから、本書の構想が生まれた。
    帝政時代から革命を経てソ連崩壊に至るまでの人々の食生活を知るため、著者は旧ソ連構成諸国を縦横に巡り、共産党書記長や宇宙飛行士の料理人、ウクライナで起きた大飢饉やレニングラード封鎖を生き延びた女性たち、アフガニスタンの戦場の厨房やチェルノブイリ原発事故の作業員のための食堂で働いた人々に話を聞く。また、先祖代々暮らしてきたクリミア半島を追われ、新天地で故郷の味を守り続けるクリミア・タタール人たちにインタビューを試みる。
    過酷な時代を生き抜いた無名の人々の声を拾い上げ、そこで見えてきた食をめぐる十八章。十三か国で翻訳、『独裁者の料理人』の著者が放つ最新ルポルタージュ。各章レシピ多数
  • 弱者の味方として、ユスティニアヌスの片腕として

    ラヴェンナの有名なモザイクで知られるビザンツ帝国の皇后テオドラ。その生涯は、たぐい稀な才能をもった女性が、多くの障害を乗り越えて、信じがたいような権力を手にするという物語である。本書は、「卑しい生まれの踊り子が皇帝の甥を魅了した」という後世のイメージを生んだ、同時代の著作の偏見に満ちた記述に分け入り、近年の初期ビザンツ研究の成果を取り入れて、テオドラの生涯を時代の全体像の中に位置づけて描いている。
     
    テオドラはこの時代の重要な政治家のひとりであり、帝国の国内・対外政策の策定に協力し、二度にわたって夫ユスティニアヌス一世を廃位の危機から救った。重大な宗教論争の解決のために中心的な役割を果たし、身売りされた女性たちを進んで援助した。敵となった人々は、経歴について、娼婦だったという想像を逞しくし、大げさに書いた。
    著者は宗教界を中心とする彼女の人脈に注目する。そしてニカの乱の際の有名な演説はもちろん、旧西ローマ帝国領の再征服や教会の統一といった、これまでテオドラが登場することのなかったユスティニアヌスの治績に、その関与を認めている。
  • 前衛芸術と共産主義を 思想家が語る現代史
    十月革命後(一九一七年~四一年)、ロシア・アヴァンギャルド運動の旗手は、共産主義といかに闘ったか? すなわち、芸術の諸領域(文学、絵画、音楽、演劇、映画……)の創り手たちと国の政治指導者たちが、イデオロギーや多様なイズムとどんな関係を取り結んでいたのかという問題を、ブルガリア出身の哲学者トドロフ(一九三九年~二〇一七年)は、その遺著において探究する。
    ゴーリキーをはじめ、メイエルホリドやマヤコフスキーからブルガーコフ……ザミャーチンやショスタコーヴィチ、エイゼンシュテインまで! 15人のロシアの前衛芸術家たちの人生とともに「時代精神」を鮮やかに描き出してゆく。
    〈本書は、集団肖像と全体主義政権を前にした芸術家の個人肖像という、大きなふたつの部からなる二枚つづきの絵というかたちを取っている。[…]個人肖像のほうは、画家カジミール・マレーヴィチという、ひとりの芸術家の経歴を綿密にたどっている〉(「序文」より)。
    ロシアの前衛芸術と共産主義を巡り、思想家が語る現代史。マレーヴィチ伝も白眉な、比類なき文化史。カラー図版を10点収録。

    【目次】

    序文 革命を前にした創造的芸術家たち
    第一部 愛から死へ

    第1章 革命の衝撃
    ブーニン、言葉の批判
    一九一七年のブルガーコフ
    ゴーリキー、〈啓蒙〉の信奉者
    メイエルホリド、熱狂
    革命に奉仕するマヤコフスキー
    自然の力に耳を傾けるブローク
    パステルナーク、共感と留保
    ツヴェターエワ、思想よりも人間を

    第2章 自分の道を選ぶ
    ピリニャーク、言い逃れをする抵抗者
    マンデリシターム、匿名のビラ
    ザミャーチン、最初のディストピア
    バーベリあるいはありえない嘘
    ブルガーコフ、悪魔を憐れむ歌
    一致を求めるパステルナーク

    第3章 文化的反革命
    ショスタコーヴィチ──音楽と言葉
    エイゼンシュテイン、勝った者が負けになる

    第4章 死亡者名簿
    第2部 カジミール・マレーヴィチ

    第1章 革命の陶酔
    第2章 ユートピアを生きる
    第3章 アヴァンギャルド芸術家の旅程
    第4章 芸術それ自体
    第5章 幻滅の年月
    第6章 共産主義の批判
    第7章 逃亡と監禁
    第8章 絵画への回帰
    第9章 最後の探求
     エピローグ 革命後

    ▪ 謝辞
    訳者あとがき
    ▪ 文献
     
    ▪ 原註
     
    ▪ 訳註
    ▪ 図版一覧
  • 対外関係から見るビザンツ史

    ギボンは『ローマ帝国衰亡史』で、彼のいう「ギリシア人」つまりビザンツ人の「臆病と内紛」を強調した。地図からビザンツが消えてしまった理由として、ビザンツ人に何かしら欠陥があったという認識は、今日でも残っている。多くの敵を打ち破るため軍団を整備すべき時に、教義論争や教会装飾にかまけて、政治・経済の現実を無視したというのだ。
    だが、もし本当にビザンツ人が怠惰で無気力だったとしたら、なぜビザンツ帝国はあれほど長く存続したのだろうか。アレクサンドロス大王をはじめ、カリスマ的な開祖が死ぬとたちまち瓦解してしまった支配が歴史上にはしばしばみられる。しかもビザンツは、アジアやアラビア半島から人の波が西へと移動していく、いわば「民族のボウリング場」の端に位置していた。ある集団を軍事力で打ち破ったところで、新たに三つの集団が現れた。ここでは、まったく新しい考え方が必要だったのだ。
    ゆえに問うべきは、なぜビザンツが滅びたかではない。なぜ不利な条件のもとで存続できたかなのだ――。本書は、おもな皇帝と印象的なエピソードを軸に、対外関係からビザンツ史を語る試みである。
  • いまある世界の始まり

    脱植民地化は、18世紀末のアメリカ独立革命とハイチ独立に始まり新世界を席捲した第一波から、20世紀末のソ連解体によって引き起こされた第四波にいたるまで、複数回にわたって起きてきた。本書は、第二次世界大戦後のアジア・アフリカ全域で生じた第三波を、こうした長期の歴史に位置づける。また、世界各地の事例を比較検討することで、脱植民地化という現象の特徴を浮き彫りにし、今日にも繋がるさまざまな暴力の源をグローバルな視点から問い直している。脱植民地化の概説書としての本書の最大の特徴は
  • 観光の誕生

    イタリア南部、ナポリ湾に浮かぶカプリ島は、「青の洞窟」を有する風光明媚な観光地として、またセレブリティが集結する「高級リゾート地」として知られている。
    しかし18世紀においては、一握りの知識人がローマの遺跡めぐりをする島にすぎなかった。
    19世紀初め、ロマン主義の台頭により多くの芸術家が島の自然美に注目しだす。当初島にはホテルはなく、裕福な家庭が自宅を宿として提供した。なかでも公証人一家の「パガーノの宿」は評判となり、館内の壁、天井は画家たちが宿代のかわりに描いた作品で埋め尽くされた。
     同じ頃、カプリは澄んだ空気と温暖な気候ゆえに結核療養地として注目を浴びる。英国人医師によって開業された療養所は世界に名だたる高級ホテル「ホテル・クイシサーナ」の始まりとなった。20世紀初めまでホテルのほとんどが夏期に休業するカプリは、「冬のリゾート」だったのだ。
    本書はまだ観光というものが一般化していなかった18世紀から20世紀にかけて、カプリが観光の島としてどのように発展していったかを、文学・美術・建築といった文化史的な側面から描いた一冊である。
  • 1755年、首都壊滅す──その地震は歴史を変えた

    1755年11月1日、万聖節の朝、ポルトガルの首都リスボンで発生した大地震は、大航海時代以来交易都市として栄えたこの街を一瞬にして壊滅させた。市内各所で発生した火災は瓦礫と化した街を焼き尽くし、さらに大津波が人々を襲った。死者2万5千人以上、ヨーロッパ史上最大の地震災害である。しかし、首都壊滅の危機に国家の対応は素早く、国王ジョゼ一世から全権を委ねられた大臣カルヴァーリョは、直ちに被災者の救援と食糧配布、遺体の処理、治安維持などの対策に着手し、その後新たな都市計画のもと首都再建に乗り出した。同時にこの国を支配していた教会・貴族勢力を排除して、ポルトガルの近代化が進められていく。地震の甚大な被害は忽ち各国に伝えられ、聖職者や思想家、科学者たちにも大きな衝撃を与え、様々な議論が沸騰した。
    一国の首都を直撃した大地震として関東大震災とも比較され、地震・火災・津波の複合災害として東日本大震災以降再び注目を集めるリスボン大地震の実態と復興の足取りを史料を駆使して鮮やかに描き、社会・経済・科学・思想・宗教など広範囲に及んだ影響をたどる歴史ノンフィクション。
  • 血まみれの暴君は「本の虫」でもあった

    スターリンの蔵書は、マルクス、エンゲルス、レーニンの著作はもとより、トロツキーなどの政敵の著作から、ビスマルクやマキャヴェッリなどの古典、トルストイ、ドストエフスキー、ゴーゴリ、チェーホフなどのロシア文学、シェイクスピア、セルバンテスなどの外国古典文学に至るまで、読書の幅はきわめて広い。また、スターリンが興味深く読んだと思われる本には、多数の書き込みが残されていた。本書は、スターリンの膨大な蔵書と書き込みを精査して、その生涯と思索の跡をたどりながら、独裁者の本質に迫る試みだ。
    逸話を紹介しよう。旧ソ連首相ルイシコフは、スターリンの蔵書であったマキャヴェッリ『君主論』を入手した。頁にびっしり書き込みが残り、まるで「独裁者の教科書」のようであったという。スターリンが下線を引いた文章を全て抜き出し、整理して出版したら、スターリンによる「マキャヴェッリ概論」になるほどだったと回顧する。
    なぜ「知的な読書家」が無用な血を流したのか? 本書は、独裁者の図書室に入室して、その思想と信条から、革命と戦争、国政と外交に及ぼした影響、人格と感情の内奥にまで踏み込む。英の歴史家による、新趣向の伝記。
  • シリーズ2冊
    4,455(税込)

    「最新かつ最良のプーチン伝」池田嘉郎氏推薦!

    本書は、「世界が対峙している男」、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンの生誕から、ウクライナ戦争に至る現在までの70年を網羅した、圧巻の伝記だ。
    プーチンの幼少年・青年期以来の個人的な資質、その後の経歴から得た歴史観、社会観、手法、西側との関係性を丹念に追いかけ、詳述する。彼自身の言動や各種情報源を無批判に羅列するのではなく、同じ内容に関する彼の発言の変化をとらえた上で比較考察し、さらにその変化そのものから背後にある真相を把握するという、きわめて周到な分析を試みている。これが、本書の記述の信頼性を増し、本格的な伝記たる所以だ。
    BBC特派員(モスクワ、ワシントン)を経て、伝記作家として活躍する著者は、ロシアのウクライナ侵攻後に本書に加筆しているが、この暴挙も、以前に執筆した内容に見事に当てはまり、違和感がない。それまでの検証の正しさが、図らずも証明された形となっている。
    8年がかりの調査取材によって執筆された本書は、読みやすさと充実のボリューム、高い精度の分析を兼ね備え、類書の追随を許さない。まさに「プーチンの真実」に迫る必読の書。
  • 新しいライフスタイルの誕生

    日本初のインターアーバン(都市間高速鉄道)として知られる阪神電気鉄道は、1時間は待たねばならない官営鉄道に対し、住宅地にこまめに駅を設置し、運賃を安くすることで、鉄道利用という新たな需要を喚起していく。「たまにはおめかしして大阪や神戸へお買い物」というライフスタイルがこのころ生まれた。
    阪急電鉄は、専務・小林一三のもと、温泉や少女歌劇、遊園地などとともに、沿線の住宅地開発に力を入れる。また、ターミナルデパートの建設などの取り組みで、阪神との熾烈な乗客獲得合戦を繰り広げていく。
    大大阪市誕生で東京市を抜き、日本一の大都市となったこの地は、沿線人口急増に苦しんでいた。そのようななか京阪電気鉄道は大阪・天満橋と京都・五条をノンストップで結ぶ、日本最初の急行運転をおこなう。一両編成運転が当たり前の時代に二両連結の申請をし、複々線化を実行に移すなど、将来を見据えた大胆な先行投資で当局を驚かせた。
    関東の私鉄をはじめ、日本全国の鉄道に多大な影響を及ぼしたこの3社の歩みを、鉄道や軌道に関する公文書と各時代の地形図を合わせて眺めることで、近代日本の姿がはっきりと浮かび上がる。掲載地図はすべてフルカラー。
  • 日本の近代史がくっきりと浮かび上がる

    温泉に浸かってゆっくりしたい。人々のそんな思いを後押しし、それぞれの土地の名湯が楽しめるようになったのは全国の鉄道路線がもたらしてくれた恩恵である。本書で取り上げる富山地方鉄道、北陸鉄道、箱根登山鉄道の開業は、宇奈月温泉、山中温泉、箱根温泉などの温泉地をより身近なものにした。富山県内各地に路線を拡げていたいくつかの私鉄と富山県営鉄道、富山市電を引き継いだ富山地方鉄道(富山電気鉄道)、石川県内の私鉄路線を統合した北陸鉄道、小田原馬車鉄道から小田原電気鉄道となり、箱根湯本・強羅間を延長した箱根登山鉄道。 この鉄道会社3社の敷設免許申請がどのような経緯で認可され、いかにして沿線住民の通勤通学の足となり、観光客の利便性に応えてきたのか。 一方で、車の所有台数は1960年に290万台、70年には1653万台、2010年には7869万台となる。このように移動手段が劇的に変化するモータリゼーション隆盛のなかで、輸送力やスピードアップ、国際観光やリゾート開発など、さまざまな課題に直面する鉄道の歩みを数多くの当時の地図や資料、公文書で辿っていく。カラー図版多数掲載。[4色刷]
  • フルコースで読む、元お抱え料理人たちの証言

    歴史の重要な瞬間に彼らは何を目にしたか? 20世紀の独裁者5人に仕えた料理人たちの悲喜こもごもの人生。2021年度〈グルマン世界料理本賞〉受賞作。
    大学卒業後、レストランでのアルバイト経験がある著者はあるとき、ユーゴスラヴィアの独裁者チトーの料理人についての映画を見て、歴史上の独裁者に仕えた料理人たちに興味を抱く。そしてついに本物の独裁者の料理人を探す旅に出る。
    本書に登場する独裁者は、サダム・フセイン(イラク)、イディ・アミン(ウガンダ)、エンヴェル・ホッジャ(アルバニア)、フィデル・カストロ(キューバ)、ポル・ポト(カンボジア)。彼らに仕えた料理人たちは、一歩間違えば死の危険に見舞われた独裁体制下を、料理の腕と己の才覚で生き延びた無名の苦労人ばかりである。著者はほぼ4年かけて4つの大陸をめぐり、たとえ料理人が見つかっても、説得してインタビューに応じてもらうまでが一苦労で、なかには匿名で取材に応じる人もいた。
    インタビューを再構成する形で料理人たちの声が生き生きと語られ、彼らの紆余曲折の人生の背後に、それぞれの国の歴史や時代背景が浮かび上がる。各章にレシピ付き。
  • 「ロシアが欲しいのは水である」

    資本主義の理論的解明に生涯を捧げたマルクス。彼はこの『資本論』に結実する探究の傍ら、1850年代、資本の文明化作用を阻むアジア的社会の研究から、東洋的専制を発見する。
    他方、クリミア戦争下に構想された本書で、マルクスはロシア的専制の起源に東洋的専制を見た。ロシア社会の専制化は、モンゴル来襲と諸公国の従属、いわゆる「タタールの軛」(1237-1462)によってもたらされたと分析したのである。
    このため、マルクスの娘、エリノアの手になる本書は歴史の闇に葬られ、とりわけ社会主義圏では一切刊行されなかったという。
    とはいえ、東洋的専制という問題意識は、その後、本書の序文を書いたウィットフォーゲルによって深められた。
    フランクフルトの社会研究所で頭角を現した彼は、『オリエンタル・デスポティズム』(1957年)に収斂していく研究で、専制の基底に大規模灌漑を要する「水力世界」を見出し、さらに、ソ連・中国の社会主義を東洋的専制の復活を見た。
    ウクライナ戦争が長期化する中、ロシアの強権体質への関心が高まっている。本書収録「近代ロシアの根源について」は今こそ読まれるべきだ。
  • 英雄か? テロか? 質朴な家具職人の物語

    「戦争を回避したかった」と供述した男は、質朴な家具職人で、単独犯だった。ナチの犯罪性を見抜き、世界の破局を確信していた暗殺者の生涯、事件の深層に迫り、歴史的評価を示す。
    1939年11月8日、21時20分、ミュンヘンのビアホール「ビュルガーブロイケラー」で時限爆弾が爆発し、8名死亡、63名負傷した。折しもヒトラーがミュンヘン一揆の記念演説を例年よりも早く終え、会場を去ったわずか13分後だった。同日、スイス国境で男が逮捕された。彼こそヒトラー爆殺未遂犯、36歳のエルザーだった。
    エルザーは、1944年ヒトラー爆殺に失敗した国防軍将校シュタウフェンベルクと異なり、貴族でもエリートでもなかった。犯行を自白したが、共産党組織に名前だけ属していただけの「イデオロギーなき」人物で、その背後にはいかなる組織、共犯者、支援者もなかった。しかしナチの目論見は、エルザーを「英国スパイ」としてプロパガンダに利用し、戦後に見世物裁判を開くことだった。
    本書は、独のノンフィクション作家が、エルザーの人格と行動を、丹念な取材と最新研究に基づいて見事に再現し、近年の歴史的位置づけにも言及する。
  • 当時の庶民の等身大の姿を生き生きと描き出す

    1972年、イギリスのある作家が多数のインタビューに基づいて、「国民の3分の1までが王室に関する夢を見たことがある」という結論を導き出した。古代ローマ人は、はたして20世紀のイギリス人のように、皇帝と食事をする夢を見たのか?
    アルテミドロスは、2世紀末~3世紀初めのローマ帝国を生きた小アジア出身のギリシア人で、5巻からなる『夢判断の書』を著した。これは、古典古代の夢と夢判断の実態を伝える、唯一現存する書物で、フロイトやフーコーが大きな関心を寄せた。本書は、これを同時代の社会、文化、宗教に位置づけながら、当時の人々の希望と不安、またその前提となった価値観――身体と自然の捉え方、ジェンダー観、宗教、そして、首都ローマから遠く離れたギリシア文化圏の都市の住民にとって、帝国とは何だったのか――を読み解く。
    古代ローマで著述をした人物としては例外的に、アルテミドロスは高度な教養を備えた知識人ではなく、ギリシアの属州エリートの平均的な教養をもち、庶民や奴隷、上流階層出身の運動選手を顧客とした。『夢判断の書』からは、概説書で描かれるものとはまったく違ったローマ帝国の姿が現れるのである。
  • 「核のある世界」への警鐘の書

    1962年10月のキューバ・ミサイル危機は、核戦争(最終戦争)が一触即発で起きかねない13日間だった。本書はその「一触」が、実はほんの偶然の積み重ねで回避されていたことを明らかにした大作だ。米国の国家安全保障会議、国防総省、統合参謀本部の会議録、関係者の個人メモ、回想録、解禁されたソ連共産党幹部会の議事録など、豊富な史料を網羅して、米ソ両政権の内部とカリブ海の現場で何が起きていたかを立体的に描き出し、手に汗握る日々が展開される。ケネディとフルシチョフの関係、その言動や心理、タカ派とハト派の攻防を丹念に積み上げるミクロ的記述と、広島・長崎への原爆投下から冷戦下の核軍拡競争に至る文脈に、この危機を位置付ける俯瞰的視点を交差させており、圧倒的な説得力がある。
    ロシアによるウクライナ軍事進攻、台湾をめぐる中国と日米の緊張を踏まえると、この危機がどこか重なって見えてくる。「核の脅威」が懸念される今、60年前の危機が残した教訓を振り返る意義は大きい。ピュリツァー賞受賞の歴史家(米外交と核管理・軍縮論)が、危機の深層を描き切った決定版。
  • 人間の魂が試される時代、理性を信奉した革命家の全貌

    トマス・ペイン(1737~1809)は、大ベストセラー冊子『コモン・センス』『人間の権利』の著作で有名で、二大民主革命(アメリカ独立革命とフランス革命)に大いに寄与した、英国出身の革命思想家だ。ペインの思想は明確で、独立派に勇気を与え、庶民にも受け入れられた。フランス革命期には渡仏して議員として活動、恐怖政治下で投獄もされた。
    ペインが訴えた社会改革は、君主制や奴隷制の廃止、格差の是正、義務教育、妊婦の保護など、現代に通じるものだった。
    〈生まれが変われば権利や特権も変わるということが神話にすぎないとペインの言葉は暴露した。さらに、その言葉は革命的な新概念を人々の心に植えつけた。それは人が生まれながらに平等だという概念である〉(本書「イントロダクション」より)。
    18世紀最大のベストセラー作家にして、哲学者や発明家としての顔も持つトマス・ペインは、人間の魂が試される時代において、英米仏の宗教や政治といかに闘争したか。理性を信奉した「祖国なき革命家」、その全貌に迫る傑作評伝! 付録:主要著作年譜、『理性の時代』摘要。図版多数。
  • 前半生をアメリカ現代史に位置づけた傑作

    1963年11月22日にテキサス州ダラスで暗殺された第35代アメリカ大統領ジョン・F・ケネディ(1917-63)――本書はその生涯を描いた本格評伝の前篇で、出生から大統領選出馬の決意を固めるまでの39年間の道のりをたどったノンフィクションである。
    「アメリカの世紀」の夜明けに生まれ、第二次世界大戦の間に成人し、冷戦時代の幕開けとともに政界に進出してその階段を駆け上っていったジョンの人生は、まさに激動の現代史と軌を一にするものだった。本書の特徴の一つは、当時の政治・社会状況やアメリカを取り巻く国際情勢とケネディ家のファミリーヒストリーとを車の両輪として詳細に描いていることである。
    一代でアメリカ有数の大富豪になり、金の力で駐英大使にまでなった父ジョセフは、ともに優秀な上の二人の息子を幼いときからけしかけ、競わせた。兄のジョー・ジュニアが戦死すると、父の夢の矛先は次男に向けられ、底なしの財力とあらゆるコネを使って政界の道をまっしぐらに突き進ませる――。ピュリツァー賞受賞の歴史家が膨大な史料を渉猟し、伝説と化したJFKの実像に迫った評伝の決定版。
  • 想像の源泉か? 歴史観の表明か?

    フランス革命は「自由・平等・友愛」を標語にする共和国の出発点であり、革命をどう記述するかはフランスのナショナル・アイデンティティ構築の鍵を握る。フランスの作家たちは大革命をどのように眼差し、どう描いてきたのだろうか。本書では、18世紀から20世紀を専門とする7名の仏文学者たちが、7人の作家の作品を通し、この問いに鮮やかに答える。
    取り上げるのは、革命を経験したナポレオンとほぼ同世代のスタール夫人(村田)とシャトーブリアン(小野)、「ブリュメール18日」のクーデタの直後に生まれナポレオン帝政期と復古王政期に人となったバルザック(柏木)とユゴー(西永)、そしてドレフュス事件と第一次大戦のあいだの1912年に「恐怖政治」を扱った小説を出版したアナトール・フランス(三浦)、その一回り下の世代で、ドレフュス事件から両大戦間の人民戦線期にかけて「フランス革命劇」連作8篇を書いたロマン・ロラン(アヴォカ)、最後に我々と同時代人で、マリー=アントワネットを主人公にヴェルサイユ最後の3日間を描いたシャンタル・トマ(関谷)。
    約200年に渡って強烈な個性と才能が考え抜いてきた「革命像」が、いまここに広がる。
  • 過ぎし日のイギリス王室と上流階級の世界

    エリザベス女王とその妹・マーガレット王女の幼なじみとして、王女の女官として、公私ともに王室一家のそばで生きてきた男爵夫人の回想録。
    1932年、著者はレスター伯爵の長女として生まれた。両親とも、女王の女官やその父王の侍従を務め、著者は女王の戴冠式で、6メートルの裳裾を持って付き従う大役を仰せつかる。一方、23歳で結婚した富豪の夫は、才能と魅力に恵まれつつも度を越したエキセントリックさで、国内外で騒動を引き起こす。喜びも不幸もけた外れの結婚生活だった。
    波瀾の日々の支えが、立場の差はあれ気の合う友人のマーガレット王女だった。同時に、型破りな王女の女官が30年も務まったのは、極端な性格の夫に接し慣れていたからでもあった。イギリスでも毀誉褒貶相半ばする王女だが、慈善事業に熱心で常に前向きなその生き方を、そして女王の素顔や王室の人々を、著者は魅力的に描き出している。他に登場人物はスペンサー伯爵(ダイアナ妃の父)、レーガン大統領夫妻、イメルダ・マルコス、ミック・ジャガー夫妻、デイヴィッド・ボウイら、錚々たる顔ぶれ。
  • 「ヨーロッパの祖母」となった都市の盛衰

    ローマ帝国の中心がコンスタンティノープルに移った4世紀末、西方に新しい都が台頭する。イタリアの都市ラヴェンナにおいて、アリウス派のゴート人とカトリックのローマ人は競って、比類なき建造物とモザイクを次々と創りだした。以来300年にわたりこの町は、学者・法律家・職人・宗教人を魅了し、まぎれもない文化的・政治的首都となる。この特筆すべき歴史をみごとに蘇らせて、本書はイスラーム台頭以前の地中海世界の東西の歴史を書き変え、ビザンツ帝国の影響下にラヴェンナが、中世キリスト教世界の発展にとっていかに決定的な役割を果たしたのかを明らかにする。
    全37章の多くは、皇后ガッラ・プラキディアやゴート王テオドリックら支配者から、古代ギリシアの医学をイタリアに蘇らせた医師の業績まで人物に注目しつつ、多様な民族・政治宗教勢力のるつぼであったこの都市がヨーロッパの基礎を形づくっていくさまを追う。そして、都市史をより広い視野から地中海の歴史のなかに位置づける。
    美しい図版と最新の考古学の知見によって、ヨーロッパと西方の文化へのラヴェンナの深い影響について、大胆かつ新鮮な解釈を提供する1冊。
  • 広島・長崎と同様に語り継がれる蛮行の象徴

    ドイツ東部の都市ドレスデンは「エルベ河畔のフィレンツェ」と呼ばれ、豊かな歴史と文化、自然に恵まれ、教会や古都の街並み、陶磁器や音楽で知られていた。しかし1945年2月13日~14日、軍事施設がないにもかかわらず、英米軍から三度も無差別爆撃され、焼夷弾の空襲火災によって灰燼に帰し、25000人の市民が殺害された。本書は、英国の歴史ノンフィクション作家が、市井の人々の体験と見聞をもとに、ドレスデンの壊滅と再生を物語る歴史書だ。
    「ドレスデン爆撃」については、広島・長崎と同様に「戦争の悲劇」の象徴として長く語り継がれ、さまざまな研究がなされてきた。本書はそのような蓄積をもとに、個人と家族の物語に焦点を当てつつ、空襲以前から、三波にわたる空襲の恐怖と火災の脅威、戦後の混乱と東独時代、現在の復興までを詳細に叙述している。独英米の当事者の多様な証言、日記、手紙など新史料を駆使して肉声を再現し、都市の多難な歩みを克明に描いている。
    「耳を傾けてもらえるのを待っている大勢の声がある。その多くが初めて聞かれるものである」。ウクライナが戦火に見舞われている今、本書には耳を傾けるべき声が満ちている。
  • 「20世紀最後の巨人」の脱神話化を試みる決定版

    世界を牽引した指導者、「最後の偉大なフランス人」シャルル・ドゴール。彼は巧みな戦略家であり、ひとつの政策に固執する反面、融通無碍な政治家でもあった。派手さを嫌う性格でありながら、ショーマンシップも発揮した。悲観と楽観のあいだを揺れ動き、自信を喪失したかと思うと、自己をフランスと一体化させ、君主であるかのように振る舞った。人びとの心にほとんど宗教的な崇敬の念を吹きこんだ。国民の統一を希求したが、その手法や政策はフランス社会に分断と対立を生み、ドゴールが憎悪の対象ともなった。
    従来のドゴール伝が礼賛か批判かに偏りがちだったのに対して、本書は時代ごとの世界情勢や政治的状況、経済的環境のなかにドゴールを位置づけ、著作、書翰、発言、さまざまな同時代人の証言、新公開されたフランス国立文書館収蔵のドゴール文書など膨大な資料を駆使して、その全体像を中立かつ客観的な視点から記述する。さらに本書の大きな魅力は、資料の綿密な分析に基づいて、「人間ドゴール」の複雑な性格を浮びあがらせている点にある。英国の世界的権威による、ドゴールを主役にした「20世紀フランス史」。
  • ひとつの国の滅亡の過程をつぶさに描く

    1453年5月28日、ビザンツ帝国皇帝コンスタンティノス11世は、コンスタンティノープルを包囲するオスマン・トルコ軍に対し最後の戦いに臨もうとしていた。出陣に際しての演説は、「たとえ木や石でできた者であっても涙をとめることができなかった」と言われるほど感動的なものだった。翌未明、城壁がついに破られたと悟った皇帝は、死に場所を求め敵中に突入する──
    悲愴で劇的な、長らく語られてきた帝国滅亡の場面である。だが悲しいかな、この出来事を伝える記録は偽作であることが今日では判明している。では実際にはどうであったのかを、当時の他の記録を見ていきながら、その背景にあるビザンツ人の価値観や複雑な国際政治の現実を、最新の研究成果を盛り込んで分析したのが本書である。
    同じキリスト教の西欧諸国は、かつて十字軍で都を征服した敵でもある。一方、かなりの期間、ビザンツ人とトルコ人は必ずしも敵同士ではなく、日常レベルでは平和に交流していた。両者のはざまで、皇族から都市民衆まで個々人が、危機に際してどういう選択をしたか、著者は包囲戦の百年前から帝国滅亡後の人々の動向まで描いていく。
  • 新たな制度を打ち立てた、2~4世紀の政治史

    本書は、ハドリアヌスからユリアヌスまで、2~4世紀を年代順に、人事と権力闘争、外敵との戦いを扱った政治史である。
    共和政期、帝政前期の政治史については、日本語で読める文献も多く、皇帝の伝記もある程度揃っている。しかし「危機」の時代と呼ばれる3世紀については、ギボン『ローマ帝国衰亡史』を除けばきわめて少ない。本書はそれを補う、碑文学・古銭学を駆使し最新の研究成果を反映した通史であることに加え、著者はこの時代を「衰退」の時代、「滅亡」へと向かう過程ではなく、多くの失敗もあったが数々の改革を試み、内外の危機に見事に対応した勝利の時代として描いている。
    帝政前期には、元老院議員たちが帝国のエリートとして統治の担い手となり、新たな事態に悪く言えば場当たり的な対応をしてきた。そこからしだいに安定した、一貫した統治が可能な官僚機構ができ始め、その担い手として騎士身分が興隆することになる。3世紀のさまざまな改革の試みの到達点がコンスタンティヌスの帝国であったという。
    「出来事」を追ううちに「構造」が見えてくる1冊。
  • 「見果てぬ夢」の物語

    「狂騒の1920年代」、アメリカで最も影響力のある偉人、自動車王ヘンリー・フォードと発明王トーマス・エジソンがとてつもない「夢の町」建設プランをぶち上げた。巨大ダム、クリーンな水力発電、自家用車に幹線道路など、当時の最新技術を駆使して、アラバマ州テネシー川流域の貧困地帯を一大テクノ・ユートピアに変貌させようという壮大な構想だ。さらには強欲な金融勢力の支配を排除すべく、独自通貨も発行するという。
    地元住民や同州選出議員らはこの構想に希望を抱き、現地を視察に訪れた二人を熱烈に歓迎。だが一方、首都ワシントンでは一部の有力議員や慎重派がこれを巨大企業による詐欺まがいのスキームと見て猛反発した。ユートピアか、いかさまか―。両者の熾烈なバトルが10年以上にわたって繰り広げられた末、フォードを警戒する共和党保守派の重鎮、クーリッジ大統領との取引が暴露され、「フォード構想」は突然の幕切れを迎える。
    新たな暮らしのモデルを提供する「夢の町」構想と、それを取り巻く濃密な人間模様を通して、「ジャズ・エイジ」からニューディール政策へと転換するアメリカ社会を描いた傑作ノンフィクション。
  • 「誰も望まなかった戦争」がなぜ起きたのか?

    1938年9月、ズデーテン危機が戦争に至ることなく「解決」され、戦争熱を全く欠いていた英独両国民は安堵していた。イギリスでは宥和政策がもてはやされ、ドイツでは「水晶の夜」事件が起きた。英国民は戦争に巻き込まれることを恐れながらも現実感を持てないでいた。しかし1939年に入ると国際的な小康状態は終わりを迎える。3月にドイツ軍がチェコに進駐するが、英政府や世論は他人事のように振る舞い、宥和政策を手放せなかった。戦争が間近に迫っていたにもかかわらず、英独両国民は「平和」な生活を営み、戦争は遠い出来事のように感じられた。8月に独ソ不可侵条約が締結され、世界中に衝撃を与えた。もはや英独両国民の意識がどうであれ、ヒトラーのポーランド侵攻は目前に迫っていた。ナチは独国民に対するアリバイづくりのために、また戦争に国民を誘導するために宣伝活動をしていた。こうして9月1日から3日にかけて、凄惨な暴力を伴う大戦への決定的な一歩が踏み出されることとなった……。
    第二次世界大戦開戦前の1年間、英独の普通の人びとの日常生活と心情、その変化を英国の歴史家が活写する。新たな侵略戦争が進む現在、示唆に富む書。
  • なぜ彼らは何も言わなかったのか?

    1933年、ヒトラーが首相に就任、国会議事堂放火事件を契機に、ヒトラーとナチ党は共産党やユダヤ人への弾圧を強化、国会選挙でナチ党が勝利、全権委任法を可決して、独裁体制が成立した。大きな歴史的転換期となったこの年、海外メディアやその駐在記者たちは、ヒトラーおよび「ナチ台頭」、「ユダヤ人迫害」をどのように報道していたのか? 本書は、フランスのジャーナリスト(メディア批評)が、ナチに批判的で国外追放された記者から従順で妥協的な記者まで、当時の記事や回想録を掘り起こして徹底検証する。
    海外メディアやその駐在記者たちが検閲や威嚇に屈せず、欺瞞や宣伝に騙されず、ナチを告発する報道は困難極まりなかった。ナチに目をつけられていたエドガー・マウラーや、ヒトラーに独占インタビューしたドロシー・トンプソンのように辛辣な記者は、すぐに国外追放されてしまう。一方、ナチとは妥協しながら、現場に残ることが重要と考えるルイス・ロッホナーは、批判の対象となる。「トランプ現象」と「報道の自由」が脅かされる現代に警鐘を鳴らす書。三浦俊章氏(朝日新聞編集委員)推薦。〈フランス・ジャーナリズム会議賞〉受賞作品。
  • 豪華絢爛な宮殿の舞台裏

    フランス貴族社会の象徴、ヴェルサイユ宮殿。18世紀、ここには王を頂点に1000人以上がひしめきあって暮らしていた。豪華絢爛な外観、贅沢な食事、着飾った女性たち、舞踏会や音楽会……。華やかな宮廷生活が思い浮かぶが、本書のテーマはこうした表の顔ではなく、より人間くさい日々の営みのほうにある。著者は残された書簡や官僚機構の報告書などを精力的に読み込み、宮殿での暮らしの実態をひもといてゆく。
    宮殿の内部は226の居室からなる巨大迷路の様相を呈していた。広さ・設備とも許容量を超える人数が暮らすなかで、個人のプライバシーは守られていたのか。1000人分の食事はどのように準備され、消費されていったのか。安全な飲料水は確保できていたのか。入浴や排泄はどのようにしていたのか。広大な建物をどのように掃除していたのか。大量の洗濯物はどこで洗い、どこに干していたのか。華やかなイメージとは裏腹の驚くべき事実が次々と明かされる。
    当時の史料からは、貴族たちの苦労がしのばれると同時に、彼らがたくましく生きていた様子もうかがえる。本書を読めば、これまでとは違った宮殿の姿が立ちあがってくるはずだ。
  • 「歴史認識」はなぜ他国と食い違うのか?

    「第二次世界大戦の記念碑」といえば、日本では広島の原爆ドームや長崎の平和祈念像、東京の靖国神社、海外では中国の南京大虐殺記念館、ポーランドのアウシュヴィッツ博物館が有名だ。戦争記念碑は犠牲者や戦禍を追悼するもの、英雄やレジスタンス、犯罪を記憶に留めるもの、復興や平和を唱えるものとして、集合的記憶を形成し、継承する目的を有する。しかし近年、韓国の慰安婦像のように、論争を巻き起こしている戦争記念碑も増えている。本書は、英国の歴史家が世界の25の戦争記念碑を訪ね、「英雄」「犠牲者」「モンスター」「破壊」「再生」に分類し、歴史の表象とその変化や議論を考察する。
    これらの記念碑は、地方レベルでは過去のトラウマを追悼し、国家レベルでは共同体の価値観に誇りを与え、国際的なレベルでは、戦争の悲劇から解放された未来への希望を鼓舞してくれる神話的枠組みを提供している。そして注目すべきは、本書で取り上げた9つが2000年代から新しく建設、またはリニューアルされたものなのだ。第二次世界大戦の記憶が現在に及ぼす影響の大きさと、そこから逃れられない「歴史の囚人」たちの姿が活写される。
  • 解説を聞きながら鑑賞するような楽しみ

    写本制作は盛期ルネサンスまで千数百年にわたって、多様な環境のもと、ヨーロッパの津々浦々で行なわれてきた。その特徴としてすべての事例にあてはまるものがないほどだ。本書はそんな中世の彩飾写本(彩色だけでなく金か銀が施されているものをこう呼ぶ)が作られる工程を、制作に携わったひとびとの視点に寄り添う形で、写本研究の第一人者が解説していく。
    中世に使われていたインクやペンは、今日使われているものとは性質も製法も異なった。挿絵の中の写字生は現代のペンとは違った持ち方をし、文字もじっくり観察すれば、現代のアルファベットとは書き順が異なる。同様に、「挿絵のデザインは誰がどうやって決めたのか?」「インクで書き間違えてしまったら、どう対処したのか?」「羊皮紙ヴェラムの最高級品は本当に牛の胎児の皮製なのか?」といった、写本を鑑賞するうちに浮かんでくる疑問の数々が、オックスフォード大学ボドリアン図書館所蔵の写本を中心とする多数の図版とともに検討される。
    西洋中世写本の愛好家にその魅力を伝えつつ、専門家にも貴重な写本の細部について、新たな世界を開いてくれる一冊。
  • 「高貴な人々」のイメージ・誤解・実情

    イギリスの20世紀以前の小説や演劇には、アッパー・クラス(貴族だけでなく、ジェントリと呼ばれる地主を含む)の人物が必ずと言ってよいほど出てくる。それは、彼らが政治だけでなく、文化の形成にも大きな役割を占めているからである。イギリスの国民性とされるもの、たとえば冷静さも、もとはアッパー・クラスのものだという。
    彼らは、長男がすべて受け継ぐ相続制度によって爵位と土地を守ってきた。一方でこの制度は、相続する長男にも、もらえるものがはるかに少ない次男以下にとっても、それぞれに苦労をもたらした。そしてそうした苦労が、しばしば文学や芝居のテーマともなってきた。
    では、アッパー・クラスの人々は、イギリス国内でどういうイメージをもたれ、その裏側にはどういう苦労や事情があったのか? 財産を維持する手段としての結婚、知的でないと言われてきた彼らの教育、次男以下の職業事情、そして奇人伝説の裏話までを、本書は文学や著名な人々の例を通して、背景事情とともに読み解いていく。人気のweb連載に大幅加筆のうえ、イギリス人ですらしばしば間違える、貴族の称号の複雑なシステムの一覧表を収録。

・キャンペーンの内容や期間は予告なく変更する場合があります。
・コインUP表示がある場合、ご購入時に付与されるキャンペーン分のコインは期間限定コインです。詳しくはこちら
・決済時に商品の合計税抜金額に対して課税するため、作品詳細ページの表示価格と差が生じる場合がございます。

ページ先頭へ

本を予約しました

※予約の確認・解除はこちらから

予約済み書籍

キャンセル及び解除等

発売日前日以降のキャンセル・返品等はできません。
予約の確認・解除、お支払いモード、その他注意事項は予約済み書籍一覧をご確認ください。