『月城螢、野良犬だった私たちは、いつか満月を待つ(BLIC-Novels)、雑誌を除く、分冊版を除く(文芸・小説)』の電子書籍一覧
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その先で、二人は何も言わなかった。
雨の夜に越えた一線を、なかったことのように、二人はまた同じ部屋で暮らしはじめる。何も訊かない女と、何も言わない男。沈黙だけが、唯一の約束だった。
近づけば壊れる。離れれば、もう戻れない。苗靖は、外の世界へ手を伸ばす。陳異が何を抱えて生きてきたのか、それを確かめるために--知ってしまえば、断ち切れると思っていた。
荒れた街で、二人はどんなふうに生き延びてきたのか。欠けた月の下、寄り添うことも離れることもできなかった二匹の野良犬。その記憶だけが、まだ消えない。
陳異は、遠い先のことを口にしない。ただ一人、胸の中で描いている--いつか必ず、この手で迎えに行く、と。
誰にも必要とされなかった二人の、語られないままの約束。
※本作は月城 螢の個人誌作品の電子書籍版となります。 -
沈黙だけが、二人の約束だった。
「戻ってくるな」
傷だらけの男は、誰よりも大切な少女を遠くへ行かせた。
十八歳の夏、苗靖は柳州を出た。
新しい街、新しい仕事、新しい誰か。
それでも夜の底では、いつも陳異の名が胸に響いていた。
欠けた月の下を歩いてきた、二匹の野良犬。
寄り添えず、離れきれず、ただ互いの傷だけを覚えていた。
そしていま、別れたあの駅から、列車は再び動き出す。
語られなかった約束に、終わりを告げるために。
※本作は月城 螢の個人誌作品の電子書籍版となります。 -
十年ぶりの柳州。湿った熱気と饐えた匂いの中、二十四歳の苗靖は、かつて「家族」と暮らした古いアパートへ帰ってきた。
そこには、血の繋がらない「兄」がいた。半ばチンピラのような稼業で食いつなぐ陳異??彼女を疎み、追い払い、それでも追い出しはしない男。
冷ややかに距離を取る苗靖と、粗暴に突き放す陳異。互いを「いらない」と言いながら、二人はひとつ屋根の下で、奇妙な均衡の中に暮らしはじめる。
しかし、かろうじて保たれていた均衡は、陳異の女の登場で軋みはじめる??。
寄る辺ない者だけが知っている、荒れた街の片隅の物語。誰にも必要とされなかった二人が、互いだけを「わかって」しまう、その始まり。
※本作は月城 螢の個人誌作品の電子書籍版となります。 -
「いらない」と言い交わしながら、二人はまだ同じ部屋にいた。
苗靖は、職場の同僚を「恋人」として連れ歩きはじめる。偽りの関係。けれど陳異の前でだけ、その嘘はやけに鋭く光った。冷ややかに線を引く女と、それを許さない男。陳異の女は、二人のあいだに走る見えない亀裂を、誰よりも早く嗅ぎつける。
かつて二人は、寄り添うことも離れることもできないまま生きてきた。荒れた街で、欠けた月の下を歩いた二匹の野良犬のように。
保たれていたはずの距離が、雨の夜、決定的に崩れる。誰にも必要とされなかった二人が、互いだけを「わかって」しまった、その先へ。
※本作は月城 螢の個人誌作品の電子書籍版となります。
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