本書はFortranを用いたオブジェクト指向プログラミングの解説・入門書である.古代語や絶滅危惧種とさんざんな呼ばれ方をしているFortranであるが,実は最新のプログラミングパラダイムに対応していることはほとんど知られていない.そのため,Fortranによるオブジェクト指向プログラミングについて書かれた日本語の書籍は存在していない.
本書では,オブジェクト指向プログラミングを「実践」するため,Fortranの最近の規格であるFortran2003/2008の機能を簡単に紹介し,オブジェクト指向プログラミングの機能を導入しながら2次元および3次元ベクトルを取り扱うプログラムを改良する.
例題として惑星の軌道計算および渦の運動,1次元移流方程式を取り上げ,手続き型とオブジェクト指向プログラミング双方により実装している.オブジェクト指向プログラミングによる1次元移流方程式の実装では,速度は犠牲になるが,時間積分スキームが簡潔かつ堅牢に変更できることが確認できる.
その後,より実アプリケーションに近づけた例題として2次元非圧縮性粘性流体の計算を取り上げ,手続き型およびオブジェクト指向プログラミングによって実装した後,デザインパターンを適用してプログラムを改良する.プログラムの拡張性や柔軟性の向上と計算速度を両立させ,オブジェクト指向プログラミングの有用性を示している.
本書は工学系および情報系技術者を想定して書かれており,オブジェクト指向プログラミングの概念に関する謎めいた解説は排除され,一貫して数値計算に関連づけられた解説が展開されている.オブジェクト指向プログラミングに限らず,ここまで解説が詳細で実践的な例題を取り扱っている本は,世界的にも存在していないだろう.