[作品について]『業平文治漂流奇談』の続編。前編において、希代の悪党、大伴蟠龍軒を討ち逃した業平文治が、三宅島への流刑、小笠原への漂流など、艱難辛苦の末に仇敵に迫る。花見客の蝟集する向島にて、父の敵、蟠龍軒についに対峙した文治とその妻お町による、仇討ちの首尾や如何。本編、冒頭の演者による紹介にあるとおり、この作は圓朝の噺を速記に起こしたものではない。前編の最後で概略のみ示した後段を、圓朝は公にせぬままに終わる。師没後の明治36(1903)年、弟子の圓橘は、圓朝遺稿として後編を演じる。これが速記に起こされ、時事新報に連載されて、本作となった。圓橘は、生前師匠が語る「後の文治の筋々を親しく小耳に挟んで居」たという。その記憶に基づき、師の残した粗筋の要所要所を繋いだ本作の展開は、実にめまぐるしく、いささか構成に破調をきたしているところも見られる。お町の窮地を救う熊の、いかにも都合のよい出現。海賊の頭目を討った後、代わりに首領の座におさまったのか否か、はっきりとしない蟠龍軒。かつてはぐるとなって悪事を働いた、蟠龍軒とお瀧のそらぞらしい再会。二度の大嵐を経るとはいえ、新潟沖から出て小笠原諸島に漂着するというのも、尋常ではない。後に全集が編まれるなどつゆ知らぬ圓朝が、前編の最後に示した概略からも、後段の展開は大きく外れている。だがともかくも、本編を得て、文治、お町の昔年の恨みは晴される。[仮名遣い種別]新字新仮名