「あっしは人を信じねえ代わりに、人から信じられるのも嫌えな性分です」天保の改革、大塩平八郎の乱、米船の浦賀への入港……。しかし紋次郎に限らず、農民も商人もやくざな稼業の者も、時勢の変動を感知することなく、その日の生活に追われていた。俗世に係わらず、義理にも人情にも煩わされずという生き方こそ、紋次郎がそこで学んだことであった。
各440円 (税込)
紋次郎は、死を直視していた。非情冷徹な彼が、狂女の言葉を信じ、あざむかれたのだ。追っ手は二十四人。助かる見込みは万に一つもない。紋次郎の意識は朦朧とした。またある日、紋次郎は六人の大男を相手に決然と立ち向かった。全員を泥田の中に倒し去って行く。「あっしには、今日しかございませんよ」現代的な放浪感覚と、ミステリー仕掛けのどんでん返しが圧巻。
うっそうとした木々、蝉の声に包まれた山道に突如降りつける夏の驟雨……。木曽路を進む木枯し紋次郎はそんな時、幼馴染みの長兵衛とお鶴に出会った。久しぶりの三人が巻き込まれる一大事!? 身を引き裂かれるような状況に立たされる紋次郎。ついにその長脇差は、情容赦なく光った! 全編みなぎる斬新な趣向と密度濃いドラマ。人の魂を震わす、感動の物語。
「三途の川は、独りで渡るもんでござんす」冷ややかな目でそう言うと、渡世人は長脇差を鞘に納めた。北国街道を行く紋次郎の顔に表情はない。……行きずりの男から託された荷物、間に合わなければ子供が間引かれるという。紋次郎は騙されたのか!? なかに二百両の小判が入っていた。──虚無と孤独が色濃く漂う時代劇のスーパーヒーローが、今日も街道を足早に通り過ぎる。
上州の亀穴峠を行く木枯し紋次郎は突如襲われた。相手は山で育った八人兄弟。山刀、槍、弓矢、それぞれ独自の武器を使い、鍛錬を積んでいる。……行く手には「無」、引き返してもやはり「無」。無宿の流れ者、渡世人はそれでも、命を狙う者たちへ向かって前へ進むほかはない。――非情な紋次郎と哀しい女たちのドラマを描いて、股旅小説に斬新な世界を拓いた伝説のシリーズ。
紋次郎は夕焼けを眺めながら、峠路を下る。五、六歩行ってから振り返り、唇の中心に移した楊枝に息を集めた。木枯しに似た音とともに、楊枝は吹き矢のように飛んだ。峠路を下る木枯し紋次郎の顔に、表情はない。……人を冷たく引き離しながら、密接に関わってしまう紋次郎。その乾いた心情の底にある人間の温かみ。旅はまだ終わらない。道の先にはどんな風景が……?
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