クイーンズセレクション『小さなお茶会 第4巻』のご紹介でも触れましたが、『黒のもんもん組』執筆当時の猫十字社氏は、苛烈なスケジュールに追われていて、その創作活動は、想像を超える集中力が求められていました。
例えば、『黒のもんもん組』の一回分の作品は、着想から絵の完成まで3日程度の余裕しかなく、猫十字社氏はもちろん、本編にも出てきますが、編集担当者も大げさでなく、「殺気」だっていました。
しかし、この状況でも猫十字社氏はさまざまな常識を超えたキャラクターを捻出しています。
今回主に登場するキリストとゴーダマはその典型です。
まさに、神も仏も、キャラクター化していきます。
ただ、面白いことに、多くのファンの皆さんが、それぞれ好きなキャラクターは何か、と問われた際、その答えは極めてマチマチである、という事実です。
猛烈なエネルギーで次々に生み出されていったキャラクターたちは、それぞれの時期の読者の皆さんに、まさにそれぞれに一期一会の出会いがあったことなのだと思います。
この巻には、猫十字社氏のデビュー作であるとともに、当時、白泉社が社を上げて設立した新人漫画賞であるアテナ大賞受賞作の「天使の一日」が掲載されています。
この作品を一読すると、異彩を放つ天才が、まさにすい星のように出現した当時の驚きを想像することができます。
(C)猫十字社 /大洋図書
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1978年から1984年という、バブル経済を前にして、さまざまな分野でさまざまな表現活動が急激な勢いで加熱していった時代。
サブカルチャーという、文化表現に新しい局面が花開いた時代。
この時代を先駆的に駆け抜けてきた『黒のもんもん組』は、文化がバブルによって沸点に達してしまう寸前に最終回を迎えます。
漫画文化の一種の到達点でもある沸点に達するまでの創作活動は、命がけを強いられます。
『黒のもんもん組』で猫十字社氏は命を削りながら「笑い」を創出してきましたが、その原点は「本質」との対峙であり、「本質」との絡み合いでした。
第3巻のあとがきを読むと、「一瞬の光やシクラメンの鉢や母のしぐさや表情や、とても繊細に編み込まれた様々な条件が重なって化学反応なんかもあったりして、あの幸せな大爆笑」になった、という美しい文章があります。
「笑い」の本質に迫る鋭い洞察です。
この奇跡のような一瞬を猫十字社氏は求め続けてきたのだと思います。
また、このあとがきには、漫画のデッサンに対する、卓越した意見が書かれています。
『黒のもんもん組』の底知れぬエネルギーは、このような「本質」への懸命な肉迫によって結実した作品でした。
しかし、猫十字社氏の挑戦はまだまだ続きます。
『黒のもんもん組』終結に引き続き、この挑戦は『県立御陀仏高校』という連載作品にバトンが手渡されます。
各660円 (税込)
第一ページ目から突然に「しゃかしゃかしゃか」という擬音とともに、登場人物たちが意味なく駆け巡り(ゴキブリの走りをまねているそうです)、それを受けて「きりすとっ」という書き文字とともに人物が飛び上がります。
さらにはコマの枠線を交差しながら人物たちが舞い始める……この圧倒的な展開で『黒のもんもん組』が幕を開けます。
現代の私たちにとっても衝撃的な、このとてつもないセンスがなぜ生まれたのかを考えると、初出時の社会状況を参照したくなります。
かつて日本は社会全体で一つの大きな価値観を共有していました。
すべての人が等しく豊かになれる、という考え方で、背景には高度経済成長という日本社会の経済的発展がありました。
しかし、進歩という光は多くの陰を生み出しました。
様々な公害が発生するなど、この価値観はきしみ始めます。
そして、この画一的な価値観の呪縛から解き放たれながら新しい表現が登場し始めました。
少女漫画もこの時代に内容を深化させるとともに、多彩な表現が花開きます。
これを牽引したのは萩尾望都、竹宮惠子、山岸凉子、大島弓子といった作家たちですが、ショートストーリーでは猫十字社の存在が光ります。
本編が幕を上げる1978年は変化の時代の始まりにすぎません。
時代の流れは加速度を加え、猛烈な勢いで狂騒の度合いを強めていきます。
『黒のもんもん組』もこの時代の流れとともに爆発的なエネルギーを噴出していきます。
優れたギャグ作品は、作品が生まれた同時代のさまざまな価値観の背後にある虚妄を見据え、これをさりげなく脱臼し、ついには破壊します。
「黒のもんもん組」のパワーが驚異的であるのは、この優れたギャグ作品にのみ備わる特質を間違いなく具備していることに加えてさらに、その量、質の密度が極めて高い点にあります。
著者はあとがきで、(いい音楽に出会って調子がいい時には)「うまくすれば言葉やシーンの三段跳びなんかもできました」と述べていますが、これは極めて控えめな表現であり、実際にお読みいただければ明らかですが、調子の良し悪しなど関係なく、猛烈な勢いで、息つく暇もなく、まさしく一コマ一コマに強烈なギャグが満ち溢れています。
また、驚くべきことは、ギャグのネタになる分野がほとんど無制限な点にあります。
日常生活で出会うエピソードはもちろんのこと、当時流行した言葉、商品、広告、事件、さらにジェンダーはもちろんのこと、政治、哲学、宗教までがネタとなっています。
例えば当時アメリカが配備し始めた中性子爆弾という核兵器は、「両性具有のつまったバクダン」にされてしまいます。
「黒のもんもん組」のさまざまなギャグは、時代を超えて私たちの感性にも響いてきますが、執筆当時の世相、時代の背景を踏まえると、また一味違った楽しみを味あうことができます。
クイーンズセレクション『小さなお茶会 第4巻』のご紹介でも触れましたが、『黒のもんもん組』執筆当時の猫十字社氏は、苛烈なスケジュールに追われていて、その創作活動は、想像を超える集中力が求められていました。
例えば、『黒のもんもん組』の一回分の作品は、着想から絵の完成まで3日程度の余裕しかなく、猫十字社氏はもちろん、本編にも出てきますが、編集担当者も大げさでなく、「殺気」だっていました。
しかし、この状況でも猫十字社氏はさまざまな常識を超えたキャラクターを捻出しています。
今回主に登場するキリストとゴーダマはその典型です。
まさに、神も仏も、キャラクター化していきます。
ただ、面白いことに、多くのファンの皆さんが、それぞれ好きなキャラクターは何か、と問われた際、その答えは極めてマチマチである、という事実です。
猛烈なエネルギーで次々に生み出されていったキャラクターたちは、それぞれの時期の読者の皆さんに、まさにそれぞれに一期一会の出会いがあったことなのだと思います。
この巻には、猫十字社氏のデビュー作であるとともに、当時、白泉社が社を上げて設立した新人漫画賞であるアテナ大賞受賞作の「天使の一日」が掲載されています。
この作品を一読すると、異彩を放つ天才が、まさにすい星のように出現した当時の驚きを想像することができます。
1978年から1984年という、バブル経済を前にして、さまざまな分野でさまざまな表現活動が急激な勢いで加熱していった時代。
サブカルチャーという、文化表現に新しい局面が花開いた時代。
この時代を先駆的に駆け抜けてきた『黒のもんもん組』は、文化がバブルによって沸点に達してしまう寸前に最終回を迎えます。
漫画文化の一種の到達点でもある沸点に達するまでの創作活動は、命がけを強いられます。
『黒のもんもん組』で猫十字社氏は命を削りながら「笑い」を創出してきましたが、その原点は「本質」との対峙であり、「本質」との絡み合いでした。
第3巻のあとがきを読むと、「一瞬の光やシクラメンの鉢や母のしぐさや表情や、とても繊細に編み込まれた様々な条件が重なって化学反応なんかもあったりして、あの幸せな大爆笑」になった、という美しい文章があります。
「笑い」の本質に迫る鋭い洞察です。
この奇跡のような一瞬を猫十字社氏は求め続けてきたのだと思います。
また、このあとがきには、漫画のデッサンに対する、卓越した意見が書かれています。
『黒のもんもん組』の底知れぬエネルギーは、このような「本質」への懸命な肉迫によって結実した作品でした。
しかし、猫十字社氏の挑戦はまだまだ続きます。
『黒のもんもん組』終結に引き続き、この挑戦は『県立御陀仏高校』という連載作品にバトンが手渡されます。
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