CITY 01 弐

アダムの都にゼロワンが来た。名無しのエージェント田村は大黒と落ち合い、フリーズしたキモンを核シェルターに運び込む。クロックワークシティーの生みの親、亡きケトラは事態を予測していた。
「確率の収束が訪れる」という。
一方、宗たち連合は糸切神社を取り囲んでいた。連なる漆黒の鳥居が行く手を阻み、人間性を問う。その先に囚われたマリアと英斗の面影が揺らいだ。

【CITY 01 用語解説】

アダムにおける二種類のログイン
モノイン：自宅やVRボックスのクリアシート上に体を置いて街に繰り出すプレイヤーはモノ族と呼ばれ、ユーザーの大半を占める。
パライン：リアルと電脳が融け合う世界に入れる。総称はフィジカルオンライン。死亡事故が後を絶たない。

アングラ：パラインでの必須デバイス。融合した世界が映る。目を覆うようにはめてログインすると透過される。プレイヤー同士はアングラを目視できないが、ガードを兼ねてサングラスで隠す。現実にいる人の姿は猿に見え、都では猿によるアングラ狩りが流行しており、強引な剥離は脳障害を起こす。

レンズとフランジ：コンタクトレンズ型のアングラ。IDの読み取りやサーモグラフィーによる識別、光学ズームが可能だが人皮で包んだものは覗けない。
アムス：腕時計型のウェアラブル。電子決済から武器デバイスまで使い方は様々、端末の故障時には補助心臓の役割を果たす。
IO：シリコン製の粒大イヤホン。爆音が上がれば膨張して鼓膜を守り、あらゆる言語を翻訳できるが猿の言葉は訳せない。

フラコン：端末に繋いで飼うペットや秘書。ルビーギルモアの持つ竜宮の使いは攻撃的、お嬢のダキニテンと九尾は凶暴。
パワースーツとハイパードレス：足腰を補助するアシストデバイス。プレイヤーが意識を失ったとき、もしくは睡眠時に発動する着ぐるみタイプは世界の電脳都市で禁止された。

ヒル：宗が鎖骨の窪みで飼う唇型の万能デバイス。キリーク副長の国貞はリップちゃんと呼ぶ。
エルザ：米サンズから元大臣の本郷恒実に贈られたAI。ある女性のIDを借りてモノインでアダムに入った。エルザが守る優先順位は本郷恒実、次に嫡男の優真、家族愛人の後に日本、地球と続く。

ルイードの宗が「ヒル」と呼ぶ唇型のデバイスは、出身を不気味の沼と答えた。ＢＣハービーの創ったヒルを鎖骨で飼う宗に、キモンは興味を抱く。名無しの諜報員である田村と共に、巨大な鳥かごを調査する中、怪しい車両をキモンの食指が捉えた。猿の運転するサイバートラックは、都と大津を結ぶ三条通りを洛中へ向かっていた。
宗たち連合は忌小路に陣を構え、御所を取り囲む十一基の鳥居に偵察を送った。そこに招かれざる客が静かに姿を現す。

エルザはスリープ中に異世界を創る。
アダムの都を囲んだサイバーウォールの外側で思惑が動き始めた。都の中ではエージェントが非常事態を静観し、不気味な遠隔作用をもたらす者がいた。沈黙を保つキメラの輪、シティーゼロワンの阻止に奔走する第三勢力、ひぐらしのジギを雇った巨大組織に対抗すべく、連合を組んだ宗たちに奇妙な刺客が襲いかかる。
国貞のレンズに浮かぶ梵字はキリーク、ギルモア姉妹のフランジが四条河原で不穏な影を捉えていた。

消えた仲間の手がかりをつかんだ先に、奇怪な鳥居と思わぬ壁が立ちはだかる。世界のＡＩ社会を揺るがすサイバーテロに宗たちは巻き込まれていく。
日本の人口減少に反してアダムの人口は右肩上がりで増えていた。自然災害が発生すれば自宅プレイヤーが激増する。異常気象は梅雨を長引かせ、飽和人口を祝うように電子コインが空から降った。アダムの住人が「神」と呼ぶ創設者は、いったい何がしたいのか。つわものたちのギルドが都入りした夜、御所にそびえるアダムの塔が赤く滲んだ。

色違いのリアルと電脳が入り交じるアダムに、混沌の産声が上がった。体を遠方に置いたプレイヤーが街にあふれ、取り乱した絶望を猿が弄ぶ。都に幽閉された者をログアウトさせるべく、ルイードの宗たちはサイバーマシンを走らせた。アダムとイブで同時に何かが起きている。ある電脳都市から来た男は、「ゼロワンのコアがへそを曲げれば、人類始まって以来のサイバー戦争にもつれ込む」と忠告した。