702円〜704円(税込)
桜井松平家を藩主とする摂津尼崎藩。長く江戸家老の要職をつとめる老雄、塩谷隼人は、来年還暦を迎える。先頃のお家騒動を自らの手で決着させたことを機に、国元に隠居願いを出していた。心置きなく余生を過ごすつもりが、藩命はまさかの願いお取り下げ。滂沱(ぼうだ)の涙を流す隼人にさらなる追い打ちが。隼人の剣の愛弟子である笠井辰蔵を討て、と。お家騒動の火種がまだくすぶっているのか……。
参勤交代の陰供(かげとも)として旅する若武者。その正体は、藩主の末娘、茜であった。男装して柳生新陰流を遣う茜は刺客に襲われた父の窮地を救うが、江戸入り後は奔放な言動で家老の塩谷隼人を困らせている。ある日、慎重な隼人に業を煮やした茜は、刺客を討つべく藩邸を無断で抜け出す。隼人が守りに徹してきた理由はただ一つ。人を斬ったことのない若者に無茶をさせたくなかったからだった……。
藩主の娘・茜や江戸家老・塩谷隼人の覚えめでたいとされ、朋輩の嫉妬に憔悴する鏡大次郎。隼人はことの発端となった道場主・日比野左内を藩邸に呼ぶ。左内は大次郎と激しく木刀をかわした後、あらぬ噂で彼を追い込んだ首謀者二人に言い放つ。「立ち合えば自ずとお人柄も分かります。鏡殿の剣には一片の偽りもございませんでした故、ご両名のお心の内を拝見いたしとう存じまする」
文化二年、お盆の頃。摂津尼崎藩江戸家老・塩谷隼人(しおやはやと)は胸に虚しい思いを抱えていた。それは、還暦を過ぎた今となっても父の仇討ちを果たせていない悔恨からきている。そんな折、両国広小路で暴漢たちに絡まれていた一人の武士を助けた。松崎と名乗るその武士は、聞けば四十年の間、親の仇を追う身であり、奇しくも隼人と同い年であった。因縁を感じた隼人は、助太刀を決意するが……。
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