自由、平等、多数派、世論、孤立、国家権力――。現代社会を考えるうえで避けて通れない問いを、十九世紀の時点で驚くほど鋭く見抜いていた思想家がいる。アレクシ・ド・トクヴィルである。『アメリカのデモクラシー』は、若きトクヴィルがアメリカ社会を観察しながら、近代民主主義の本質を探り抜いた政治思想の古典である。彼が見つめたのは、単なるアメリカの制度や風俗ではなかった。身分制が崩れ、人々が平等へと向かっていく時代そのものだった。民主主義は、人間に自由を与える。しかし同時に、多数派の意見が個人を圧迫する危険も生む。平等は、人々の距離を近づける。しかし同時に、孤立した個人を強大な国家へ依存させることもある。トクヴィルの洞察が今なお読み継がれるのは、民主主義を単純に礼賛するのでも、冷たく否定するのでもなく、その希望と危険を同時に描き出しているからである。地方自治、陪審制度、宗教、新聞、結社、政党、多数派の専制、個人主義、中央集権。本書に現れるテーマは、十九世紀アメリカの問題にとどまらない。世論の力、メディアの影響、政治的分断、共同体の衰退、行政権力の拡大が問われる現代においてこそ、トクヴィルの言葉は新しい意味を帯びて響いてくる。民主主義社会に生きる私たちは、何を守り、何を警戒すべきなのか。自由な市民であり続けるために、どのような精神と制度が必要なのか。『アメリカのデモクラシー』は、政治思想、歴史、社会学、アメリカ研究に関心のある読者はもちろん、現代社会の行方を深く考えたいすべての人に読まれるべき一冊である。民主主義の時代を生きる私たちにとって、この古典は過去の書物ではない。むしろ、現在を読み解くための、最も力強い知的な道具の一つである。