文政三年も、初秋を迎えていた。凄まじいほどの賑わいと盛況を呈する八月十五日の深川八幡の祭礼も無事にすんで、名月を観賞する時期もすぎた。土手下の芒(すすき)の穂が重そうに感じられ、栗飯(くりめし)を食べたくなる季節となった。深川や本所の町並みに、ふと初秋の寂寥(せきりょう)感を覚えたりするこのごろだった。(中略)しかし、そうなったからと言って、退屈するほどの平穏無事な日々が続くわけではない。現に、人が殺された。…この「花嫁狂乱」以下、本巻には「遠い音」「鬼の貌(かお)」「黄金の仏像」「雨吹き風降る」の5編を収めた。
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例年のことだが、正月というのは穏やかなものだった。風もなく、日射しが明るい。それに、静かである。華やかな賑わいはあっても、忙(せわ)しかったり 慌(あわ)ただしかったりはしないのだ。屋敷町にはいると、琴の音が聞えたりする。町人地では羽根つきの音と、娘たちの笑い声を耳にする。正月二日の宵になると、宝船売りが町を回る。このときだけの、商売であった。宝船の絵を枕の下に入れて寝ると、縁起のいい夢を見ることができるというわけだった。……この「罪なお年玉」ほか、「赤い初雪」「罪なお年玉」「薮入りの留守」「死の初伊勢(はついせ)」「梅の声」の5編を収めた。
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左腕がなく、顔一面、濃い無精髭(ぶしょうひげ)におおわれている男が、颯爽たる男前の左右両腕利きの《音なし源》に変身!…冴えわたるプロットと小気味よい殺陣で読ませる笹沢左保ならではの「ハードボイルド捕物帳」。全10巻。本巻には「光る闇」「夜桜の涙」「暗夜の花道」「鶴の八番」「《さ》の字殺し」の5編を収めた。
文政三年も、初秋を迎えていた。凄まじいほどの賑わいと盛況を呈する八月十五日の深川八幡の祭礼も無事にすんで、名月を観賞する時期もすぎた。土手下の芒(すすき)の穂が重そうに感じられ、栗飯(くりめし)を食べたくなる季節となった。深川や本所の町並みに、ふと初秋の寂寥(せきりょう)感を覚えたりするこのごろだった。(中略)しかし、そうなったからと言って、退屈するほどの平穏無事な日々が続くわけではない。現に、人が殺された。…この「花嫁狂乱」以下、本巻には「遠い音」「鬼の貌(かお)」「黄金の仏像」「雨吹き風降る」の5編を収めた。
文政三年も、十月の末となった。江戸の名物でもある空っ風が、三日に一度は吹き荒れる。江戸の木枯しは、短時間に狂ったように吹くのであった。大江戸の人家の屋根を叩き、軒を煽って、路上を吹き抜ける。砂塵が舞い上がり、紙屑が競い合うように地上を滑ってゆく。看板が揺れて、木戸が忙しく開閉する。必ずどこからか、バタンバタンという音が聞えて来るものだった。…この「木枯しの辻」ほか、「賭けた浪人」「霜柱は笑う」「木枯しの辻」「湯治場の女」「凍った三日月」の5編を収めた。
例年のことだが、正月というのは穏やかなものだった。風もなく、日射しが明るい。それに、静かである。華やかな賑わいはあっても、忙(せわ)しかったり 慌(あわ)ただしかったりはしないのだ。屋敷町にはいると、琴の音が聞えたりする。町人地では羽根つきの音と、娘たちの笑い声を耳にする。正月二日の宵になると、宝船売りが町を回る。このときだけの、商売であった。宝船の絵を枕の下に入れて寝ると、縁起のいい夢を見ることができるというわけだった。……この「罪なお年玉」ほか、「赤い初雪」「罪なお年玉」「薮入りの留守」「死の初伊勢(はついせ)」「梅の声」の5編を収めた。
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