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『ヨシカワヨシオ(文芸・小説)』の電子書籍一覧

1 ~4件目/全4件

  • 定時制高校の事務員として働いている目方氏は、あるとき、一冊の古い辞書を手に入れる。目方氏が、学生食堂で辞書のページをめくっていると、一人の少女に声をかけられる。少女の名は、多々良ルリ子。いっけん普通の可愛い女の子に見えるルリ子は、ときおり、数週間も深く眠りこんでしまうという、不思議な病気にかかっていた。そしてそれは、ただ眠りこんでしまうだけの病気ではなかった…。

    不条理な世界を生きるものたちの、いたみとゆらぎを描く物語。


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    「ほら、このあたり。【切腹】、【説伏】、【拙文】、【節分】、【接吻】、【絶壁】、【切片】、【雪片】、【切望】、【説法】、【絶望】、【舌鋒】、【節米】、【絶無】。まったくもって、でたらめでしょう」
    「それって、でたらめって言うのかなぁ」
     辞書のページに視線を落としたまま、目方氏は言った。
    「それでですね。私は何やら、私たちが生きている世界すべてが、この辞書の中と同じように、まったくもって、でたらめにできているような気がするのです」
    「それって、どういうこと?」
    「まぁ、それほど、深い意味はありませんが。誰がどう生きようが、消えてしまおうが、世界はそんなこととは関係なく、ただでたらめに続いていくだけのことではないかと。私には、どうもそのように思われるのです」
    「みんなでたらめに生きて、でたらめに消えてなくなっちゃうだけってこと? 私も、ママも、事務員さんも、寅吉も? でも、そんな風に考えたりして、事務員さん、怖くないの?」

    (Capter27【でたらめ】より)

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  • これは、出口を見失ったしまった「記憶」をめぐる物語。

    寝入りばなにこめかみを叩かれた時、思わず目を開けてしまった「私」は、「いきどまり」という物の怪に取り憑かれてしまう。「いきどまり」は、夜な夜な現れては、関西弁で、さまざまな奇妙なことをまくしたてる。

    「私」は故郷を離れ、OLとして大阪で働いているのだが、「いきどまり」とのやりとりのなかで、次第に、「私」の過去のある出来事が明らかになっていく……。


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     寝入りばなに、こめかみを、とんとんと叩かれた。思わず目を開けそうになる。私は、かろうじてその衝動を抑えた。
    「いきどまりだわ」
     寝入りばなにこめかみを叩かれた時は、絶対に目を開けてはいけない。子供のころ、お兄さんにそう言われたのだ。
    「里を離れて、西に行くほど、いきどまりが出るんだ。おまえはいきどまりに狙われやすい気質に違いないから、気をつけなければいけないよ」
     目を開けてはいけない。絶対に。
     とんとん。とんとん。いきどまりは、執拗にこめかみを叩いてくる。眠気がどんどん遠のいていく。

    **********

     私は、そおっと目を薄く開けてみた。枕もとに、何者かが正座している。しまった、と思った時はもう遅かった。全身の筋肉が硬直して、目を閉じることも、身動きすることもできない。
    「ほお、目開けたんか」
     関西弁だ。土地柄だろうか、それとも、いきどまりというのは関西弁が普通なのだろうか。
    「あんた、里のお兄さんに言われたんやろ。寝入りばなに、こめかみをとんとんされても、目開けたらあかんて」

    (1「プロローグ」より)

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  • イルキーは、世界を愛している。─ 寓話のような、詩のような、99のモノローグ集。

    ひとりの「人」が、ひとつの「物」が、かわるがわるやって来て、イルキーという「存在」に何かを語りかけては、消えていきます。ひとつひとつにイラストを添えており、絵本としても読んでいただけます。

    ★Contents
    01 哲学者 02 果物 03 パイプ屋 04 宝石 05 商人 06 杭 07 事務員 08 石 09 歌うたい 10 丸太 11 農夫 12 道しるべ 13 詩人 14 草 15 伝令 16 炎 17 料理人 18 骨 19 軍人 20 渦 ほか99編

    ◎幻想短編集『グルグルという名の町にて』より3編を巻末に併載(緑色のパイプ/果てしない記憶/歌のゆくえ)


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    09 歌うたい

    イルキーは、ひとりの歌うたいに会った。

    「わたしの歌が、つかまらないのよ、イルキーくん。
    わたしは、うたう。高らかに、うたう。
    そのとたん、歌はどこかへ逃げてしまう。
    わたしから、逃げてしまう。
    どの歌も、わたしの手もとには残らなかったの。
    もちろん、いろんな人に、たずねてみたわ。
    わたしの歌を、見ませんでしたかって。
    でも、みんな首を横に振るばかり。
    ねぇ、イルキーくん、あなたは知らない?
    わたしの歌は、どこへ逃げていくのかしら。」

    「イー?」

    歌うたいは、言った。
    「わたしの歌が、つかまらないのよ、イルキーくん。」


    イルキーは、世界を愛している。


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  • この物語の主人公は、「ふむ、ふむ」といつも何かを考えている「フムの木」。

    とある山の中に、フムの木の森がひろがっています。きこりの手によって伐り出され、森に別れを告げたフムの木たちは、さまざまな場所で、さまざまな「モノ」に生まれ変わります。
    そして、「ふむ、ふむ」と何かを考えながら、人間たちの人生を眺めているのです……。

    どこか懐かしく、すこし不思議な、九つの物語。連作短編集

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     ざぶん、ざぶん、ざっぷん、ざぶん。
     ざっぷん、ざぶん、ざぶーん、ざっぷん。
     ざぶん、ざぶーん、ざっぷん、ざぶん。

    「ふむ、ふむ。今日も、あいかわらず、あの声が聞えてくるな。いったい、何が言いたいのだろう」
     とある町の海べりの公園にそなえつけられたフムの木のベンチは、少し離れたところから聞えてくる、何ものかの声を、ずっと気にかけていました。
     その声というのは、海岸にうちよせる波の音だったのですが、フムの木のベンチがそなえつけられた場所からは、海岸をかいま見ることはできませんでした。そして、山育ちのフムの木のベンチには、この世に「海」というものがあるということを、想像することもできなかったのです。

    ***********

     フムの木のベンチは、かたときも休むことなく聞えてくるその声が、何かをしきりに伝えたがっているような気がして、なりませんでした。考えをどうめぐらせてみても、何を言いたいのかは、さっぱりわかりません。けれどもそれは、とても「大切なこと」のように思えたのです。

    (5「ベンチの日々」より)

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